(メールマガジンとして配信された文章)
おはようございます。ラピシュットの長谷川高士です。
2025年3月17日、国土交通省があるガイドラインを発表しました。
タイトルは「災害時地下水利用ガイドライン~災害用井戸・湧水の活用に向けて~ 」です。
先週は、飲用井戸のガイドラインについて確認しました。
今日のコンテンツは、災害用井戸その2、です。
先週に引き続き、「災害時地下水利用ガイドライン」を読み進めます。
今日は、第3章「地下水利用に当たっての事前検討」からです。
早速ですが、3.1 取組の進め方の冒頭の文章を引用します。
防災計画上の目標水量や施設配置計画など未検討な場合でも、防災拠点施設や指定避難所等の補助的な水源確保などのため、まずは既設井戸・湧水の活用を検討し、取組を進めることにより、地域の防災力向上に繋げることが望ましい。
また、災害時の給水計画上、空白地帯がある場合や、防災拠点施設や指定避難所等に、新たに公共井戸整備を検討することも重要である。
要するに、
「まずは既設の井戸や湧水を把握しよう」
ということです。
ただし、把握をするにしても闇雲に行うのではなく、3.2では次のように進めることを提案しています。
代替水源として井戸や湧水の活用を検討する場合には、被害想定や地域防災計画で位置付けられている応急給水施設の配置から水の需給バランスを考慮して、必要性の高い地区を抽出した上で、候補地等を検討することが望ましい。
応急給水施設の配置を前提に、需要と供給のバランスを考慮せよ、と言っています。
すなわち、必要な水量(需要)に対して応急給水能力(供給)が不足している度合いが高い地区を優先して、代替水源としての井戸や湧水の活用を検討すべきである、ということです。
これは、あくまでも自治体としての合理的な考え方の指針だと言えます。
一方で、さらに小さなエリアである地区(校区や自治区)としては、自分たちにとっての災害時給水の需給を検討し、少しでも供給を増やせるように独自で代替水源としての地下水利用を検討することができます。
把握、新設の検討、工事内容、補助
3.3は、既設井戸・湧水等の把握です。
ここでは行政である自治体が、民間の井戸や湧水を把握する手段や方法を具体的に紹介しています。
地区としてできることは、やはり聴き取りでしょうか。
自治会など既存のコミュニティやネットワークを活用して、井戸や湧水の存在を把握することが災害時の地下水利用の第1歩です。
続いて3.4は、新設井戸の検討です。
需要過多であるにも拘わらず、既存の井戸や湧水がない場合には新たに井戸を整備することを検討することも重要です。
本ガイドラインでは、井戸を新設するに当たって重要となる「地下水の実態」の調査方法を具体的に紹介しています。
そして3.5では、井戸工事の内容が解説されています。
具体的には次のようなものです。
- 井戸工事は施工条件(地形、地質など)により方法、期間、費用など工事内容が大きく異なる
- 一般的な工事期間の目安は10~14日間
- 水質の把握には別途水質検査が必要(期間は2~4週間程度)
- 一般的な井戸掘り(さく井)工事の費用の目安は、
- 10万円/m(深さ30mまで)
- ※次の費用は別途
- 井戸ポンプ代
- 電気工事費
- 市街地等での騒音・振動対策費
3.6では自治体向けの補助制度が紹介されています。
住民や地区向けの補助が自治体によって行われている場合もあります。
例えば、愛媛県の伊方町では「防災用井戸等整備補助事業」が行われているようです。
https://www.town.ikata.ehime.jp/soshiki/1/22539.html
登録に関する取扱要領
続いては、第4章「災害用井戸・湧水の登録に関する取扱要領の策定」です。
いよいよ災害用井戸の登録制度について、です。
4.1 取扱要領策定の必要性では次のようにこれを説明しています。
災害時の地下水等活用の推進を図るため災害用井戸・湧水の登録に関する取扱要領を策定し、災害用井戸・湧水の普及推進を図るとともに、井戸水の提供に関わる事故が発生した場合の責任の所在について明らかにするためにも取扱要領を定めるものとする。
登録に関する取扱要領を策定する目的を、次のように挙げているわけです。
- 災害時の地下水利用の推進を図るため
- 災害用井戸・湧水の普及推進を図るため
- 井戸に関わる事故発生時の責任所在を明らかにするため
これらの目的を果たすため、登録に関する取扱要領に必要な項目は次のとおりです。
- 制度の目的
- 登録の要件
- 登録の手続き
- 利用者の遵守事項(利用のルール)
- 登録の期間
- 登録内容の変更手続き
- 登録の解除とその手続き
このうちの一部について詳しくみていきましょう。
登録の要件、水質
4.2は取扱要領の項目の1つである「登録の要件」について、です。
ガイドラインでは、必須の要件として次のものを推奨しています。
- 災害時に原則無償で提供できること
- 所在地など必要情報を提供できること
- 明らかな危険や汚染がないこと
これらを前提に自治体ごとに登録の要件が定められている、あるいは、今後定められるものと考えられます。
4.3は水質について触れられています。
本ガイドラインでは、飲用を除く生活用水としての利用を前提としているため、「水質基準を求めない」というスタンスが採用されています。
併せて、飲用利用をする場合を対象に、本ガイドラインも「飲用井戸等衛生対策要領」を紹介し、これに従うことを推奨しています。
4.4から4.10までは、広報を含む登録事務全般について、です。
具体的な登録方法などは、お住まいの自治体の登録制度を参照されることをお勧めします。
利用に当たっての留意事項
最終の第5章は、「利用に当たっての留意事項」です。
5.1.1は平常時の点検・維持管理で、「飲用井戸等衛生対策要領」に準じた内容です。
5.1.2は利用者向け留意事項の周知です。
こちらは、災害用途ならではのポイントが紹介されています。
■災害用井戸・湧水利用者へ周知する留意事項の例
- 井戸水・湧水の提供は、所有者の善意によるものであること
- 所有者の事情により提供を中止する場合もあること
- 井戸水・湧水の提供は、災害発生時に限ること
- 使用用途(生活用水に限定など)
- 利用時間(日中の利用など)
- 水を運ぶ容器の準備や持ち帰りは利用者が行うこと
- 利用に当たっては、所有者の指示に従うこと
- 多量の井戸水・湧水の使用や井戸・湧水の占有を行わないこと
- 井戸以外の敷地や建物に立ち入らないこと
- 井戸水の提供を受けた結果、利用者の身体や物品に被害が生じた場合、故意による場合を除き、所有者への責任は問えないこと
最後の責任に関する項目については特に重要度が高いものの1つであり、利用者として、より正しく理解しておくことが求められると言えます。
代替電源の確保か手動ポンプとの併用
5.1.3 災害発生時における機能確保では、機能確保のための推奨事項が紹介されています。
既設の井戸の多くは、電動ポンプによって水を汲み上げる方式を採用しています。
ただし、災害時には停電が見込まれます。
ゆえに、災害時に地下水を利用する代替水源として電動ポンプを採用している井戸は、ぜい弱だと言えます。
このぜい弱性を解決する手段として次の2つが考えられます。
- 代替電源の確保
家庭用発電機やポータブルバッテリー、またはソーラーパネルなどからの給電など - 手動ポンプの併用(増設)
手動(手押し)ポンプを増設し、電動ポンプと併用して使えるように整備
既存の井戸を災害用井戸として有効活用するには、このいずれかの手段を検討し、実装することが肝要です。
5.2 災害発生時の対応では、実際に災害が発生した際の自治体および利用者が知っておくべき内容が紹介されています。
必要に応じて参照してください。
以上、6週に渡り災害用井戸について概観してきました。
これを機会に、お住まいの自治体の災害用井戸の登録制度について調べていただき、できることから進めていただければ幸いです。
◇今日のお勧め
近所の既設井戸の場所を聴き合ってみる
地元の災害用井戸の登録制度を調べてみる
◇引用・参考文献一覧
内閣官房水循環政策本部事務局 国土交通省水管理・国土保全局水資源部(2025年3月17日)「災害時地下水利用ガイドライン ~災害用井戸・湧水の活用に向けて~」
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/content/001879780.pdf
◇この文章の入口(参考)
整理された制度や指針(右上)と、実務・運用の現場(右下)から、意味がほどける地点(左上)へ
この文章は、
判断や結論に入る手前の、話の地面を整える工程(lapi-schutto.jp/before-the-talk)に関わる中で書かれています。
この文章を読んで、
話が噛み合わない感触や結論に入る前の違和感
が残るときは、それを急いで解消しなくても構いません。
そのための場所を、別に置いています。
