(メールマガジンとして配信された文章)
おはようございます。ラピシュットの長谷川高士です。
社労士事務所での勤務における私の役割の1つが、助成金の申請業務です。
実務経験というのは実に学びが大きく、これまで曖昧だったことをより明快に理解することができました。
今日は、その一部を提供します。
今日のコンテンツは、補助金と助成金の違い、です。
補助金と助成金。
似たものとして理解されがちであり、私自身も明確に区別できていませんでした。
ところがこの2つ、実は背景と仕組みがある程度の明確さで異なるものでした。
資金調達の方法の1つとして、さまざまな場面で利用が検討される補助金と助成金。
両者の違いを踏まえておくことは、利用可能性を高める上で価値があるかもしれません。
今日はこの、補助金と助成金の違いを、法律的な根拠や歴史的経緯を含めて整理しようと思います。
用語の基本的な違い
まずは言葉の意味から見てみましょう。
補助と助成をそれぞれ辞書で引くと、次のように語釈されています。
■補助
おぎない助けること。また、その助けになるもの。■助成
事業などを助けて成就させること。力を添えて成功させること。
これらを踏まえると、補助金と助成金は次のように仮定義ができそうです。
- 補助金:不足を補い助けるためのお金
- 助成金:事業の成立を助けるためのお金
補助金はお金の不足分を埋めるニュアンスが、助成金は取り組み自体を推進するニュアンスが、それぞれ強そうではあります。
しかしその違いは、明確とまでは言えません。
補助金の根拠法
補助金には明確な根拠法があります。
1955(昭和30)年に制定された補助金等適正化法(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律)です。
この法律は、その名の通り、補助金に関する不正をなくし、制度が適正に運用されることを求めて提案されました。
当時の衆議院大蔵委員会での藤枝泉介委員による提案理由を引用します。
(数字の一部を算用数字にしています)
国の歳出予算は、国民から徴収された税金その他貴重な財源でまかなわれており、厘毛たりといえども、これが不正、不当に支出されるがごときことは許されないのでありまして、政府におきましては、常にこれを公正かつ効率的に使用するように努めている次第であります。
しかしながら昭和28年度決算検査報告によれば、不当事項として2,200余件が指摘され、そのうち支出に関係するものが1,400余件であり、このうち約9割近くを占める1,200余件は補助金に関するものでありまして、累年その件数は増加の一途をたどってきた現状であります。
その内容は、事業費について過大に積算したり、不実の積算をしたものや、設計通りの工事を施行しなかったり、自己負担を免れたり、はなはだしいのは、架空の工事や二重の申請をして国庫補助金等の交付を受けたもの等があります。
補助金等が国の歳出予算の約3割を占めている現在、これらの補助金等にかかる予算の執行の適正化をはかることは喫緊の要請であり、今回ここにこの法律案を提案した次第であります。
今(2025年)から70年前の戦後の動乱期とはいえ、まあまあの酷さであり、提案者の切実な想いが伝わります。
こうして成立した同法の第1条には、次のように目的が規定されています。
- 補助金等の不正な交付申請や不正使用を防止すること
- 補助金等の予算の執行や交付決定の適正化を図ること
1)で補助金等に対する認識の転換を、2)で補助金等交付手続の統一化と明確化を、それぞれ目当てていると言われています。
補助金の法的定義
補助金等適正化法の第2条は、各種定義を規定しています。
大雑把にまとめると、次のようになります。
■補助金等とは、
- 国が国以外の者に対して交付する
- 相当の反対給付を受けない給付金
■補助事業等とは、
- 補助金等の交付対象となる事務又は事業
■補助事業者等とは、
- 補助事業等を行う者
なお、「相当の反対給付を受けない」とは、受給者が交付者に対して相当の債務を負わない(もらいっぱなしでよい)、という意味です。
これらのことから「補助金等」は、名称の如何によらず次の3つの性格を持つ、と解釈されています。
- 相当の反対給付を受けない(片務性)
- 受給者が利益を受ける(受益性)
- 使途が特定されている(特定性)
ちなみに、1】の片務性を「助成的性格」と表現している場合も散見されます。
だとすれば、1】~3】の性格を満足すれば、仮に助成金という名称であったとしても、補助金等適正化法上の「補助金等」に当てはまることになります。
なお、第2条の定義には、次のものもあります。
■間接補助金等とは、
- 国以外の者が交付する
- 相当の反対給付を受けない給付金で、
- 補助金等を直接又は間接にその財源の
- 全部又は一部とし、
- 当該補助金等の交付目的に従って交付するもの
たとえば地方公共団体が、国から交付された補助金を財源としてその目的に従って住民に給付金を交付する場合に、これを間接補助金と呼ぶ、ということです。
これにより補助金には、国だけでなく都道府県や市町村によって交付されるものも含まれることが分かります。
さらに第3条から、もう1つの定義を読み取ることができます。
■補助金等とは、
- 国民から徴収された税金その他の貴重な財源でまかなわれるもの
助成金の根拠法
補助金等適正化法のように手続きを横断的に規定した統一法は、助成金にはありません。
一方で助成金の代表格とも言える雇用関係助成金には根拠法があります。
1974(昭和49)年制定の雇用保険法です。
根拠となる条文を引用します。
第3条 雇用保険は、第1条の目的を達成するため、失業等給付及び育児休業等給付を行うほか、雇用安定事業及び能力開発事業を行うことができる。
第62条 政府は、被保険者等に関し、失業の予防、雇用状態の是正、雇用機会の増大その他雇用の安定を図るため、雇用安定事業として、次の事業を行うことができる。
一 景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合において、労働者を休業させる事業主その他労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講ずる事業主に対して、必要な助成及び援助を行うこと。
二 ……(以下、省略)
これらの条文から次のことが分かります。
- 雇用関係助成金は、雇用保険の事業の1つ(雇用安定事業)である
- 雇用関係助成金の財源は、雇用保険料である
雇用関係助成金は補助金か
雇用関係助成金には、例えば次のようなものがあります。
- 雇用調整助成金
休業教育訓練、出向の費用を助成 - キャリアアップ助成金
有期雇用労働者等の正社員化などを助成 - 人材開発支援助成金
人材開発に掛かる費用の一部を助成
このように雇用関係助成金は、補助金の3つの性格のうち 1】の片務性と 2】の受益性を満たしています。
ただし、3】の特定性については、必ずしも当てはまるとは言えません。
その意味では雇用関係助成金の中には、「補助金等」に該当しないものがありそうです。
また「補助金等」の財源の定義である「税金その他の貴重な財源」に雇用保険料が含まれないとすれば、やはり雇用関係助成金は「補助金等」には該当しないことになります。
助成金の名称が、条文中の「必要な助成及び援助を行う」に由来しているであろうことは、想像に難くありません。
一方で20年近く前から補助金等適正化法が運用されているにもかかわらず、「雇用関係補助金」としなかったのには、何らかの区別をしたかった、という意図を感じもします。
交付までの手続きの違い
補助金と雇用関係助成金には、交付までの手続きにおいて明確な違いがあります。
補助金が交付を受ける者を選抜するのに対して、雇用関係助成金は要件を満たしていれば原則支給されます。
補助金では、まず公募が行われます。
交付を受けたい者は事業計画書などの必要書類を作成してこれに応募申請をします。
応募に対して審査が行われます。
所定の基準に従って計画の実現可能性や政策との適合性が高く評価された一部の応募事業が補助対象として採択されます。
審査には時間が掛かる上に、不採択になれば交付を受けられません。
雇用関係助成金は交付申請と支給申請を行います
(支給申請だけのものもあります)。
申請では必要書類を作成して提出します。
中には、必要書類に計画書が含まれる場合もあります。
申請に対して行われるのは優劣を付ける審査ではなく、要件の満足を見極める確認です。
よって、就業規則、雇用契約書、賃金台帳など要件を満たすことを証明する書類を整えられれば、原則として支給が決まります。
補助金のような不採択という概念はなく、要件を満たさなければ不支給となります。
このように雇用関係助成金には、要件さえ満たせば交付を受けられるものが数多くあります。
現場で実務を経験することで
「知らないともったいない」
と思えるものを知ることができました。
◇今日の気づき
補助金は交付を受ける者を選抜する
雇用関係助成金は要件を満たせば支給される
◇引用・参考文献一覧
独立行政法人国立大学財務・経営センター総務部施設助成課(2007年9月19日)「補助金適正化法について」
https://groups.oist.jp/sites/default/files/imce/u368/Hojokin_slide.pdf?utm_source=chatgpt.com
国会会議録検索システム(1955年7月19日)「第22回国会 衆議院大蔵委員会 第34号」
https://kokkai.ndl.go.jp/simple/detail?minId=102204629X03419550719
◇この文章の入口(参考)
整理された意味(右上)から、意味がほどける場(左上)へ
この文章は、
判断や結論に入る手前の、話の地面を整える工程(lapi-schutto.jp/before-the-talk)に関わる中で書かれています。
この文章を読んで、
話が噛み合わない感触や結論に入る前の違和感
が残るときは、それを急いで解消しなくても構いません。
そのための場所を、別に置いています。
