メールマガジンとして配信された文章)

おはようございます。ラピシュットの長谷川高士です。

社労士事務所での勤務を始めて、1か月が経ちました。

法律の勉強にも通じることから、この仕事にやり甲斐を感じています。

で、私自身の学習のまとめも兼ねて、このメルマガで労務関連のことを書こうと思いました。

「さすがにテーマを広げすぎ?」
と、二の足を踏む気持ちがありながらも、
「(労務は)多くの人にとって関係が深く、福祉にも通じるところがあるし」
と、得意の正当化で自分の行為を肯定したりして……。

まあ、もとより
「書きたいことを書こう」
と決めて始めたメルマガです。

変わらずお付き合いいただければ幸いです。

今日のコンテンツは、労働、です。

労働とは。

予想通りかと思いますが、私の場合「そもそも論」から始めないわけにはいきません。

辞書の語釈には、
「からだを使って働くこと。特に賃金や報酬を得るために働くこと」
とありました。

しかし、今日テーマにしたいのは、このような辞書的な意味ではなく、法律上で取り扱われる概念としての「労働」です。

結論を先取りすれば、日本の法律が観念している「労働」とは、
「他人に雇われて働くこと」
だと言えます。

この「他人に雇われて働くこと」について、法律の大本である憲法では「勤労」という語が当てられています。

また、労働法を特別法とした場合の一般法に当たる民法では、労働法で言うところの「労働(契約)」に対応する概念として「雇用(契約)」が用いられています。

このように法律を横断的にみると、労働と同じような意味の言葉が少なくともほかに2つ以上あるのです。

憲法で「勤労」という語が用いられた経緯や雇用契約と労働契約の厳密な違い(雇用契約が労働契約を包含)については、法学説などに踏み込む必要など、なかなかにややこしい事情があることから本稿ではあえて無視することとします。

テーマにしたいのは「勤労」でも「雇用」でもなく「労働」です。

というわけで今日は、わが国の労働法における「労働」について、理解してみたいと思います。

労働法における定義

ちなみに、労働法というのは単一の法律名ではありません。

労働法は複数の労働関係法令の総称として使われる呼称であり、その中身は文脈によって異なります。

一般的には、労働基準法、労働契約法、労働組合法を中核とし、これに最低賃金法、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などが含まれることが多いと言えます。

前章で確認した本稿の目的である
「労働法における『労働』についての理解」
に向けて、まずは中核となる3法における定義を見てみることにします。

労働基準法、労働契約法、労働組合法の3法には「労働」という語の定義はありません。

代わりに「労働者」という語がそれぞれ次のように定義されいます。

■労働基準法 第9条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

■労働契約法 第2条
この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。

■労働組合法 第3条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。

同じ語の定義であるにも拘わらず、法ごとに微妙に異なることが分かります。

これは、それぞれの目的や、誰をどこまで保護するかという射程の違いに応じて、法ごとに表現が調整されているからです。

一方で、次のように3法の定義に共通する部分もあります。

  • 使用される者
  • 賃金を支払われる者

ここから、労働法における労働とは

  • 賃金を受け取って使用されて働くこと

と、ひとまずは整理できそうです。

とはいえこれは帰納的な推論に過ぎず、妥当性の検証が必要です。

今日は、あえてこの検証を先送りします。

そして「労働者」の定義をさらに深掘りしてみようと思います。

労働基準法の意義と労働者性

前章に挙げた3法のうち、最も耳馴染みがあるのが労働基準法ではないでしょうか。

労働基準法(以下「労基法」とします)とはどのような法律かを説明した厚労省の文章を引用します。

労働基準法は、日本国憲法第27条第2項「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」という規定がその根拠になっています。

本来、労働関係は労働者と使用者の対等な立場での契約自由の原則に基づいて行われるものですが、労働者はその経済的な力の弱さから不公平な契約となる可能性があることから、法律によって最低限の基準を設けたものです。

この法律の適用を受ける労働者はすべて、この法律を下回る労働条件で雇用されたとしても、この法律に規定された最低基準まで自動的にその条件は引き上げられることになります。

憲法を根拠とし、最低限の労働基準を設け、この法律上の労働者はこの最低基準が担保される。

これが労基法の概要です。

さらに労基法は、第1条第1項において、
「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」
と定めています。

この条文は、憲法第25条第1項が保障する
「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)」
を具現化したものの1つ、と解されています。

ここで重要になるのが、この法律の適用を受ける労働者、すなわち労基法上の労働者、ある人が該当するかどうかという判断です。

なぜならば、この法律の保護対象になるか否かが、その判断によって決まるからです。

この判断は「労働者性の判断」と呼ばれています。

この労働者性の判断こそ、正に労働者の定義の深掘りだと言えます。

労働者性の有無=使用従属性の有無

労働者性の判断は、その難しさから度々争われてきたという歴史を持っています。

裁判例を含む判断事例を積み上げた上で、昭和60(1985)年12月19日に「労働基準法の「労働者」の判断基準について」という報告書が公表されました。

以降は、この報告書に基づいて深掘りを続けます。

まずは、元の労基法の定義をおさらいしましょう。

■労働基準法 第9条
労働者とは、

  • 職業の種類を問わず、
  • 事業に使用される者で、
  • 賃金を支払われる者をいう。

労働者性の判断は、当然にこの定義に基づく判断であるべきです。

これについて、報告書は次のように解説しています。

労働基準法第9条は、その適用対象である「労働者」を「使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定している。

これによれば、「労働者」であるか否か、すなわち「労働者性」の有無は「使用される=指揮監督下の労働」という労務提供の形態及び「賃金支払」という報酬の労務に対する対償性、すなわち報酬が提供された労務に対するものであるかどうかということによって判断されることとなる。

この二つの基準を総称して、「使用従属性」と呼ぶこととする。

要するにこういうことです。

  • 労働者性は2つの基準で判断できる
  • その2つの基準をまとめて使用従属性と呼ぶ

つまり、

  • 労働者性の有無=使用従属性の有無

ということです。

話題展開の理由に代えて

文量が多くなったので、今日は一旦、このあたりで締めようと思います。

その前に、なぜこんな展開にしているのか、という理由につながるポイントを2点確認しておきます。

1つ目は労働の対価についてです。

定義の一部に、
「賃金を支払われる者をいう」
とあるとおり、労働法における労働は有償労働です。

先に引用した
「からだを使って働くこと。特に賃金や報酬を得るために働くこと」
という語釈の後半部分に該当するものです。

対して前半部分は有償、無償の別を問うておらず、労働全般を広く包含しています。

すなわち、有償労働という語がわざわざ存在することからも分かるとおり、労働には、対価を受け取らない無償労働もあり得ます。

ただしこれは、
「無償労働であれば労基法上の労働者には当たらない」
ということを直ちに意味しません。

この点について、先の報告書では次のように補足しています。

「労働者性」の判断に当たっては、雇用契約、請負契約といった形式的な契約形式のいかんにかかわらず、実質的な使用従属性を、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素をも勘案して総合的に判断する必要がある場合があるので、その具体的判断基準を明確にしなければならない。

形式ではなく実質(実態)をもって判断される、ということです。

そして、2つ目の確認ポイントはこの点に大いに関わっています。

それが契約形態です。

民法には、労務の提供を伴う契約として、雇用、請負、委任・準委任などが規定されています。

雇用契約は冒頭でも触れたとおり、労働法における労働契約と概ね重なるものです。

その代替手段として実務上よく採用されるものに業務委託契約がありますが、これらは多くの場合、民法上の請負または準委任契約に当たります。

契約形態は、その状況における何らかの理由によって選択されているのでしょうが、労基法における労働者性は「形式ではなく実質(実態)をもって判断される」のです。

この実質(実態)をもって行う判断、すなわち「使用従属性の有無」の判断について、次週さらに掘り下げたいと思います。

◇今日の気づき

労働は賃金を受け取り使用されて働くこと
労働者性は形式ではなく実態で判断される

◇引用・参考文献一覧

厚生労働省「労働基準法における「労働者」とは」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/index02.html

厚生労働省静岡労働局「労働基準法の概要(用語の定義)」
https://jsite.mhlw.go.jp/shizuoka-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/hourei_seido/kantoku00/kantoku0001.html

労働基準法研究会(1985年12月19日)「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」
https://www.mhlw.go.jp/content/001477330.pdf

和田肇(2017年4月)「労働とは 法学の観点から」日本労働研究雑誌 2017年4月号(No.680)
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2017/04/pdf/002-004.pdf

◇この文章の入口(参考)

概念整理(右上)を通りつつ、実務の手触り(右下)から、意味がほどける場所(左上)へ


この文章は、
判断や結論に入る手前の、話の地面を整える工程(lapi-schutto.jp/before-the-talk)に関わる中で書かれています。

この文章を読んで、

話が噛み合わない感触や結論に入る前の違和感

が残るときは、それを急いで解消しなくても構いません。

そのための場所を、別に置いています。

結論の前に