メールマガジンとして配信された文章)

おはようございます。ラピシュットの長谷川高士です。

先週から「労働」について考えています。

今日のコンテンツは、労働その2、です。

まずは、おさらいから。

労働基準法(以下「労基法」とします)を代表とする労働法には、労働ではなく「労働者」が定義されています。

たとえば労基法では次のとおり。

■労働基準法 第9条
労働者とは、

  • 職業の種類を問わず、
  • 事業に使用される者で、
  • 賃金を支払われる者をいう

この定義から帰納的に推論すると、
「労働とは、賃金を得て使用されて働くこと」
だと一旦は導けそうです(要検証)。

ところで、この「労基法上の労働者」の判断には悩ましいものが少なからずあり、度々争われてきました。

そこで、裁判例を含む判断事例を積み上げた上で、昭和60(1985)年12月19日に「労働基準法の「労働者」の判断基準について」という報告書(以下「報告書」とします)が公表されました。

報告書はその結論を、

労働者性の有無は、

  • 形式ではなく実態としての
  • 使用従属性の有無で

判断される

としています。

すなわち、

  • 形式上は業務委託(請負または準委任)契約であっても
  • 実態が「使用従属性有り」ならば
  • 労働者として労基法の適用を受ける

ということです。

ちなみに、
「労働者として労基法の適用を受ける」
ということは、たとえば

  • (不要だと思っていた)残業代の支払い義務

などが事業者側に(遡及して)発生する、ということです。

では、使用従属性とは何なのか。
さらに掘り下げてみましょう。

労働者性=使用従属性

あらためて報告書を見てましょう。

労働者性の判断基準について、次のように解説しています。

労働基準法第9条は、その適用対象である「労働者」を「使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定している。

これによれば、「労働者」であるか否か、すなわち「労働者性」の有無は「使用される=指揮監督下の労働」という労務提供の形態及び「賃金支払」という報酬の労務に対する対償性、すなわち報酬が提供された労務に対するものであるかどうかということによって判断されることとなる。

この二つの基準を総称して、「使用従属性」と呼ぶこととする。

要するにこういうことです。

  • 労働者性は次の2つの基準で判断される。
  1. 指揮監督関係の有無(使用されるという労務提供形態)
  2. 報酬の労働対償性の有無(賃金払いという報酬形態)
  • その2つの基準をまとめて使用従属性と呼ぶ。

続けて報告書は、1)と2)をさらに詳しく解説しています。

1)指揮監督関係の有無 その1

まずは、1)指揮監督関係の有無、の詳細です。

繰り返しになりますが、使用従属性は形式ではなくその実態で判断されます。

指揮監督関係を実態として判断するには、より具体的な要素が必要です。

そこで報告書は、実態としての指揮監督関係を推認――「あるだろう」と認めることが――できる、より具体的な要素を4つ挙げています。

そして、それぞれの有無が次の状態のとき、指揮監督関係を推認できる、としています。

  1. 依頼・指示への諾否の自由:無
  2. 業務遂行上の指揮監督:有
  3. 拘束性:有

ただし、次のものは指揮監督関係が否定される。

  1. 労務提供の代替性:有

上から順に見ていきましょう。

■イ)依頼・指示への諾否の自由:無

諾は「引き受ける」という意味です。

つまり、諾否の自由とは、
「引き受けるか断るかを自分の意思で選択する」
ということです。

仕事の依頼や業務従事の指示等に対して、諾否の自由がない、すなわち拒否できない場合には、指揮監督関係が推認されます。

一方で、諾否の自由を有していれば、他人に従属して労務を提供するとは言えず、指揮監督関係は否定されます。

なお、分かりやすく「有無」で表現していますが、諾否の自由を含む4つの要素は、実際には、全て度合いで観測される性格を有しています。

度合いが大きければ指揮監督関係を推認される方向に、小さければ否定される方向に働く、というのがより正確な表現です。

諾否の自由度について言えば、

  • ほぼ無
  • 一部無(有)
  • ほぼ有

のような段階がある、ということです。
(以前紹介したリッカート項目の5件法に当たります)

例えば、請負や準委任契約における次のような場面において、これを観察することができます。

  1. 個別の仕事の諾否(諾否の自由が一部無)
    包括的な仕事の依頼を受諾したとき、その一部である個々の具体的な仕事を拒むことが事実上できない(自由が制限される)。
  2. 専属下請(諾否の自由がほぼ無)
    発注者に対して専属的な下請の立場にあり、事実上、仕事の依頼を拒むことができない。

いずれの場合も諾否の自由度が「有」ではないことから、このことだけをもって指揮監督関係を直ちに肯定することはできません。

もしそうだとしたら、世の中の業務委託契約のほとんどが雇用(労働)契約になってしまいます。

使用従属性は、最終的にはその「有無」が判断されますが、それは他の要素も含めた総合的な考量の結果なのです。

1)指揮監督関係の有無 その2

残り3つの要素について同様に確認します。

■ロ)業務遂行上の指揮監督:有

業務遂行上の指揮監督については、さらに2つに分けています。

  • 内容や方法に関する指揮命令の強弱
  • 予定外業務指示の有無

業務の内容や遂行方法に関する指揮命令は、前章で踏まえたとおり、度合いで観察される要素の1つです。

その度合い(強度)が、業務委託契約における注文者からの指示程度であれば、指揮命令とは見なされず、指揮監督関係は肯定されません。

一方の予定外業務指示は、明確な有無を観察しやすい要素だと言えます。

命令や依頼によって通常予定されているもの以外の業務に従事することがある場合には、指揮監督関係を肯定することができます。

■ハ)拘束性:有

労務を提供する場所や時間が指定され、かつそれを管理されている、すなわち拘束されていることは、一般的には指揮監督関係を肯定する基本的な要素だと言えます。

ただし中には、業務の性質、または安全確保の必要等から自ずと場所や時間が特定されてしまう場合もあります。

拘束性は、第1段階として有無を判断し、その上でその発生が業務の性質等によるものか、または指揮命令によるものかを判断します。

■ニ)労務提供の代替性:無(補強要素)

労務提供の代替性とは、次の内容を指します。

  • 本人に代わって他の者が労務を提供する
  • 本人自らの判断によって補助者を使う

これら労務提供の代替性がある(認められている)場合、指揮監督関係を否定する要素の1つになり得ます。

なお、イ)~ロ)が指揮監督関係を判断する要素であるのに対して、労務提供の代替性は、その判断を補強する要素とされています。

労務提供の代替性が全くないことだけをもって、直ちに指揮監督関係が肯定されるものではないからです。

2)報酬の労働対償性の有無

次に、2)報酬の労働対償性の有無、について見てみましょう。

冒頭で掲げた際に、「(賃金払いという報酬形態)」という補足を付けました。

では、賃金が支払われていることをもって、報酬の労働対償性がある、と言えるでしょうか。

労基法第11条は、
「賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」
と規定しています。

つまり、労働の対償として労働者に支払うものは、どんな名称でも「賃金」である、ということです。

なお、この規定における「労働の対償」の労働とは、労基法の条文であることから、論理必然的に、労基法上の労働者性を踏まえたもの、すなわち使用従属性のある労働、ということになります。

よって、労基法第11条の定義どおりの賃金が支払われていれば、報酬の労働対償性は論理的に担保されることになるわけです。

しかし、再三の繰り返しになりますが、使用従属性は形式ではなく実態で判断されるものでした。

たとえ「賃金」という名目で報酬が支払われていたとしても、労働対償性が実態として伴っていなければ、そこに使用従属性を推認することはできません。

逆に(呼称はさておき)、支払われ方からその労働対償性を確認できる報酬があります。

たとえば、算出の前提に一定時間の労務提供を置く、次のような報酬です。

  • 時間給を基礎として計算される報酬
  • 欠勤した場合には応分が控除される報酬
  • 残業した場合には別手当が支給される報酬

これらの報酬が支払われている実態は、使用従属性を補強する要素となり得ます。

労働者性の判断を補強する要素

さてここまで、労働者性、すなわち使用従属性を判断する要素と、それを推認する要素を、報告書の内容に従って概観してきました。

まとめると、次のようになります。

■労働者性=使用従属性を判断する要素

1)指揮監督関係の有無

┣「有」と推認する要素と状態
┃ イ)依頼・指示への諾否の自由度:無
┃ ロ)業務遂行上の指揮監督:有
┃  ・内容や方法に関する指揮命令:強
┃  ・予定外業務指示:有
┃ ハ)拘束性:有(ただし理由に拠る)

┗「無」との推認を補強する要素と状態
  ニ)労務提供の代替性:有

2)報酬の労働対償性の有無

報告書は、最後にこれらに加えて、労働者性の判断を補強するとされる要素を3つ挙げています。

1〉事業者性の有無

労務の提供者側に事業者性があるとき、労働者性(使用従属性)が否定される方向に働く

2〉専属性の程度

次のような場合には労働者性(使用従属性)が肯定される方向に働く

  • 専属性が強い場合 他社業務への従事を制限されている、または時間的に余裕なく事実上困難である
  • 報酬の生活保障的な要素が強い報酬に固定給部分がある、または事実上固定給となっており、その額も生計を維持しうる程度のものである

3〉その他

次のような場合には労働者性(使用従属性)が肯定される方向に働く

  • 選考過程が正規従業員の場合とほぼ同様である
  • 報酬について給与所得としての源泉徴収を行っている
  • 労働保険の適用対象としている
  • 服務規律を適用している
  • 退職金制度や福利厚生を適用している

以上で、ようやく整理ができました。

来週は労働者性の判断が悩ましい具体的な事例を見てみることにします。

なお、要検証としていた労働の定義について、本稿の執筆を通して一歩進展しました。

労働とは、
「賃金を得て、使用されて働くこと」
を次のように更新します。

労働とは、
「賃金を得て、指揮監督の下に働くこと」

◇今日の気づき

労働とは、賃金を得て指揮監督の下に働くこと
労働者性があるとき指揮監督関係がある

◇引用・参考文献一覧

厚生労働省「労働基準法における「労働者」とは」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/index02.html

労働基準法研究会(1985年12月19日)「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」
https://www.mhlw.go.jp/content/001477330.pdf

◇この文章の入口(参考)

整理された意味(右上)から、意味が未確定な領域(左上)へ


この文章は、
判断や結論に入る手前の、話の地面を整える工程(lapi-schutto.jp/before-the-talk)に関わる中で書かれています。

この文章を読んで、

話が噛み合わない感触や結論に入る前の違和感

が残るときは、それを急いで解消しなくても構いません。

そのための場所を、別に置いています。

結論の前に