メールマガジンとして配信された文章)

おはようございます。ラピシュットの長谷川高士です。

「労働」について考えている今月。

3回目の今日は、いよいよ具体例を見てみようと思います。

今日のコンテンツは、労働その3、です。

法律をもって物事を判断する際の考え方や方法論のことを「判断枠組み」と言います。

これまで、労働基準法(以下「労基法」とします)上の労働者であるか否かを争点とする数多くの裁判が行われ、判例が積み上げられてきました。

その結果、労働者性の判断枠組みが次のとおり導かれました。

■労働者性=使用従属性を判断する要素

1)指揮監督関係の有無

┣「有」と推認する要素と状態
┃ イ)依頼・指示への諾否の自由度:無
┃ ロ)業務遂行上の指揮監督:有
┃  ・内容や方法に関する指揮命令:強
┃  ・予定外業務指示:有
┃ ハ)拘束性:有(ただし理由に拠る)

┗「無」との推認を補強する要素と状態
  ニ)労務提供の代替性:有

2)報酬の労働対償性の有無

3)労働者性の判断を補強する要素
┣ 1〉事業者性の有無
┣ 2〉専属性の程度
┗ 3〉その他

では、この判断枠組みが実際にどのように使われ判断されるのか、を具体例で見てみましょう。

事例1 トラック運転手

1つ目は、トラック運転手のXさんの事例です。

これからXさんの仕事や働き方について紹介します。

Xさんの労働者性の有無について、考えながら読み進めてみてください。

Xさんは個人事業主のトラック運転手です。

Y社と運送業務委託契約を結び、運送の仕事を引き受けています。

Xさんは自分専用のトラックに乗っています。

Xさんは自身を
「このトラックの所有者である」
と認識しています。

なぜなら、一旦はY社が支払ったトラックの代金を、Y社から受け取る毎月の報酬から天引きされる形で負担しているからです。

なお、このトラックについては、Y社との間で次のようなに取り決めもありす。

  • 給油するガソリンスタンドや、修理する工場は、Y社の指定先に限る
  • ガソリン代や修理費はY社が一旦支払い、後にXさんへの報酬から引き去る
  • トラック代金の毎月の引き去り額は、Y社が決める

ちなみにXさんは、Y社やトラック販売会社に対して、担保の類を何も提供してはいません――。

さて、Y社の仕事としてトラックを運転するXさんに、労働者性はあるでしょうか、それともないでしょうか。

みなさんはどう判断しますか。

事例2 IT技術者

2つ目の事例も同じように見てみましょう。

今度はIT技術者のXさんです。

Xさんは個人事業主のIT技術者です。

長らく勤めたIT関連企業を退職し、先頃、Aという屋号で独立しました。

Xさんは、Y社に1つの事業計画を提案しました。

それは工務店であるY社の新規事業として、IT関連事業を行うというものでした。

XさんがY社に出した事業計画書において、Y社を親会社、Aを子会社として位置付けました。

ITに関して全くの素人であるY社の社長は、このXさんの提案に乗ることにしました。

こうしてXさんは現在、自身の仕事の1つとしてY社でIT技術者として働いています。

Y社の社長はXさんに自由な裁量を与え、自社のIT関連事業を全面的に任せています。

Xさんは、午前9時から午後6時(1時間休憩あり)でY社で仕事をしています。

ときには土曜にも出社を求められることがある一方で、平日の日中に私用を済ませることもしばしばあります。

XさんがY社の仕事を行う事務所は、Y社のものとは別にY社がAのために賃借して用意した場所です。

さらにY社はAのために、費用を負担してコピー機と社用車も用意しました。

Xさんはこの事務所、コピー機、社用車を自由に使えています。

一方で、Y社の仕事で使う高性能のパソコンは、そのリース料をXさんが負担しています。

Xさんはメールで業務報告を行っています。

主な報告内容は予定の連絡や事後報告です。

XさんとY社は契約内容を明示した書面を取り交わしていませんが、XさんはY社から「給与明細書」を毎月受け取っています。

給与明細書には「基本給」と「外注費」の名目でそれぞれ15万円が記載されています。

「基本給」からは所得税が源泉徴収され、雇用保険料が引き去られていますが、「外注費」からは税も保険料も引かれていません――。

さて、IT技術者としてY社の仕事をするXさんに、労働者性はあるでしょうか、それともないでしょうか。

みなさんはどう判断しますか。

謎解きは……

2つの事例はいずれも実際の裁判例です。

事例1、2は、それぞれ

  1. 日興運送事件(東京地判平成24年1月27日)
  2. 末棟工務店事件(大阪地判平成24年9月28日)

という事件名が付いています。

いずれも、それぞれのXさんが提起した民事訴訟です。

訴えの内容は、自身が労基法上の労働者であることを前提として、それぞれ

  1. 退職金の支払い
  2. (不当に減額された)賃金の支払い等

をY社に求めるものでした。

言わずもがな、争点はいずれの事件も、

  • Xさんの労働者性の有無

でした。

では、答え合わせをしましょう。

裁判所は、それぞれのXさんの労働者性を次のように判断しました。

  1. トラック運転手のXさん:肯定
  2. IT技術者のXさん   :否定

どうでしたか?

みなさんの判断と同じだったでしょうか。

ではなぜ、裁判所はそのように判断したのか。

判断枠組みに基づく謎解きは
……、
……、
……、
「来週のお楽しみ」としましょう。

◇今日の宿題

運転手の労働者性はなぜ肯定されたのか
IT技術者の労働者性はなぜ否定されたのか

◇引用・参考文献一覧

労働基準法研究会(1985年12月19日)「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」
https://www.mhlw.go.jp/content/001477330.pdf

厚生労働省労働基準局(2024年10月)「労働基準法における労働者性判断に係る参考資料集」
https://www.mhlw.go.jp/content/001462701.pdf

◇この文章の入口(参考)

整理された意味(右上)から、意味がほどける場所(左上)へ


この文章は、
判断や結論に入る手前の、話の地面を整える工程(lapi-schutto.jp/before-the-talk)に関わる中で書かれています。

この文章を読んで、

話が噛み合わない感触や結論に入る前の違和感

が残るときは、それを急いで解消しなくても構いません。

そのための場所を、別に置いています。

結論の前に