メールマガジンとして配信された文章)

おはようございます。ラピシュットの長谷川高士です。

「労働」について考えている今月。

4回目の今日は、前回紹介した具体例の判断内容の詳細、いわば「謎解きの解答編」です。

今日のコンテンツは、労働その4、です。

今日は、前回紹介した労働者性を判断した具体例(裁判例)について、その判断内容をお伝えする解答編です。

まずは、おさらいとして、
「労働者性の判断枠組み」
を再掲しておきます。

■労働者性=使用従属性の判断枠組み

1)指揮監督関係の有無

┣「有」と推認する要素と状態
┃ イ)依頼・指示への諾否の自由度:無
┃ ロ)業務遂行上の指揮監督:有
┃  ・内容や方法に関する指揮命令:強
┃  ・予定外業務指示:有
┃ ハ)拘束性:有(ただし理由に拠る)

┗「無」との推認を補強する要素と状態
  ニ)労務提供の代替性:有

2)報酬の労働対償性の有無

3)労働者性の判断を補強する要素
┣ 1〉事業者性の有無
┣ 2〉専属性の程度
┗ 3〉その他

では、事例1から見てみましょう。

事例1 トラック運転手

1つ目は、トラック運転手のXさんの事例でした。

東京地方裁判所は、Xさんの労働者性を肯定する判断を下しました。

この裁判所が重きを置いたのは、

1)イ)依頼・指示への諾否の自由度

でした。

すなわち
「(Xさんに)本件業務遂行についての諾否の自由があったものとはいえない」
として、指揮監督関係の存在を肯定したのです。

この判断は、次の論理に基づきます。

  1. Y社は、Xさんのトラックに関する費用を、Xさんが行う業務によって回収する必要があった

ゆえに、

  1. Xさんが、Xさんのトラックを利用してY社以外の業務を遂行することは想像しがたい

よって、

  1. Xさんに諾否の自由があったとはいえない(事実上、Y社の仕事しかできなかった)

そして裁判所が 1】の根拠としたのが次の事実です。

  • XさんのトラックはY社が代金を支払って購入したY社所有のものだった
  • Y社は、Xの給与(報酬)から購入代金相当額をY社が一方的に決定した方法で月々差し引くことで、トラックの購入代金を回収していた
  • トラックの購入代金について、XさんはY社または販売会社に担保を提供してはいなかった
  • トラックについて、給油するガソリンスタンドや、修理する工場は、Y社の指定先に限られていた
  • ガソリン代や修理費はY社が一旦支払い、後にXさんへの給与から引き去られていた

よって、「Y社は、Xさんのトラックに関する費用を、Xさんが行う業務によって回収する必要があったのである」と。

事例2 IT技術者

2つ目の事例は、IT技術者のXさんでした。

大阪地方裁判所は、Xさんの労働者性を否定する判断を下しました。

この事例で裁判所が重きを置いたのは、

1)ニ)業務遂行上の指揮監督の有無
1)ハ)拘束性の有無

でした。

まず裁判所は、次の内容を、
「(XさんとY社との間に)指揮命令関係が存在しなかったことを強く推認させる事実である」
としました。

  • Y社の社長は、自身が全くの素人であることから、Xさんに自由な裁量を与え、自社のIT関連事業を全面的に任せていた。
  • Xさんはメールで業務報告を行っていたが、主な報告内容は予定の連絡や事後報告の域を出ない。
  • XさんはY社に出した事業計画書において、Y社を親会社、Aを子会社として位置付けていた。

そして、これらの事実から、「XさんとY社は、A(Xさんの個人事業)をY社から独立した事業主体であると考えていたことが認められ」るとしました。

つまり、
「業務遂行上の指揮監督はなかった」
という訳です。

また裁判所は、次の論理で拘束性を否定しました。

■場所の拘束性:弱

  • XさんがY社の仕事を行う事務所は、既存のものとは別にY社がAのために新たに賃借して用意した場所だった。
  • Xさんはこの事務所を自由に使えており、Y社の他の従業員とは明らかに異なる扱いを受けている。

■時間の拘束性:弱

  • Xさんは、午前9時から午後6時(1時間休憩あり)で、土曜にも出社を求められることがあったと主張している。
  • しかし、土曜のみならず、平日でも日中に明らかに私用と認められる行動を行っている。
  • これについてY社の承認を受けた形跡がないことからすると、所定労働時間の定めがあり、土曜も出勤を命じられていたとのXさんの供述は採用できない。

■その他

  • Y社がAのためにコピー機や社用車を購入していることは、Aの独立性を否定する方向に働く間接事実であるといえる一方、高性能パソコンは、Xさんがリース料を負担していた。
  • ゆえに、Aの備品等をY社が用意した事実は、XY間の契約の性質を判断する決定的な要素であるとまではいえない。

労働者という人はいるのか

いかがでしたか。

「スッキリせず、モヤモヤが残る」
という感想を抱いた方もいるかもしれません。

まあ、そもそも労働者性が明白ならば争いにはなりにくい訳であり、裏を返せば、訴訟になっているものの多くが、労働者性が不明確な事例だということでしょう。

さて、以前からお伝えしているとおり、私は現在、業務委託と雇用(労働)の2つの契約形態で仕事をしています。

雇用の場合は個人として、業務委託の場合は法人として、それぞれ先方と契約しています。

今回、あらためて整理してみて気づいたことは、特に業務委託の場合に、
「労働者性を感じる場面が少なくない」
ということでした。

契約形態に業務委託を選択する意向は、発注者側と受注者側の双方にあり得ます。

ただし、業務委託が選択されたある契約において、その選択に発注者側の意向が強く働いており、かつ労働者性が疑われる場合には、本来保障されるべき労働者の権利が毀損されることになりかねません。

振り返ってみると、
「労働者性があったっぽいなあ……」
と感じられるものが、これまで私が受託者として経験した業務委託の中にあったり(なかったり)。

逆に、雇用されて仕事をする場面では、労働者である自分をより強く意識するようにもなりました。

可笑しな言い方にはなりますが、ちゃんと

  • 指揮命令通りに業務を行っているか
  • 拘束されているか

という意識です。

ところで、「高齢者」というラベル的な表現を代替するものとして「高齢期」という呼称があります。

「あの人は高齢者だ」
と言う代わりに
「今、あの人は高齢期にある」
と言おう、というものです。

私は、このあり方を好ましく思う者の1人です。

高齢者という人は1人もおらず、人々の中に高齢期にある人がいる、のだからです。

労働者という呼称にも、これと同じことが当てはまるのではないか、と考えました。

労働者という人がいるのではなく、
「ある時点で労働者性のある働き方をする人」
がいるのです。

少なくとも、雇う人と雇われる人の双方は、
「今は、労働者性のある働き方をしている(あるいは、今は、労働者性のある働き方をしていない)」
という認識を正しく持つ必要があると言えます。

なぜならば、それが正しい契約(約束)内容だからです。

この認識を見直した方がよい労務環境は、ひょっとすると、少なくないのかもしれません。

労働の話を書こうと思ったのは、実は
「休日、休暇、休業、休職、休憩の違い」
を知ったことがきかっけでした。

この5つの違いは、労働者性の取り扱いによって説明することができます。

ただしそのためには、労働者性について説明しなければならない。

そこで、4回に渡るシリーズとなりました。

「休日、休暇、休業、休職、休憩の違い」
は、次週以降に書きたいと思います。

◇今日の気づき

ある時点で労働者性のある働き方をする
労働性への意識を見直した方がよいかも

◇引用・参考文献一覧

労働基準法研究会(1985年12月19日)「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」
https://www.mhlw.go.jp/content/001477330.pdf

厚生労働省労働基準局(2024年10月)「労働基準法における労働者性判断に係る参考資料集」
https://www.mhlw.go.jp/content/001462701.pdf

◇この文章の入口(参考)

整理された判断枠(右上)と、働き方への違和感(左下)から、意味(左上)へ


この文章は、
判断や結論に入る手前の、話の地面を整える工程(lapi-schutto.jp/before-the-talk)に関わる中で書かれています。

この文章を読んで、

話が噛み合わない感触や結論に入る前の違和感

が残るときは、それを急いで解消しなくても構いません。

そのための場所を、別に置いています。

結論の前に