(メールマガジンとして配信された文章)
おはようございます。ラピシュットの長谷川高士です。
約10年ぶりに見直された「南海トラフ巨大地震の被害想定と対策」。
先週お休みしたその読み解きの続きを書きます。
今日のコンテンツは、南海トラフ巨大地震その4、です。
南海トラフ巨大地震の状況ごとの被害を描く「被害の様相」。
その(注釈を除いた)本文中には「トイレ」という言葉が23回使用されています。
その具体的な使用箇所を読み解く上で、「被害の様相」の文書構成への理解が欠かせません。
「被害の様相」は3節に大きく分かれ、第3節の「項目別の被害の様相」には10の項が立てられています。
さらにその10項の内、第1項および2項以外の項は、最大で19の目(もく)に分けられています。
23個の「トイレ」がどの項や目で使用されているのかを、踏まえて読み解き始めたのが前々号。
今日は、その続きからです。
生活の影響-避難者
次に「トイレ」が登場するのは、第6項「生活への影響」の第1目「避難者」です。
同目中の「トイレ」の使用箇所を引用します。
■被害様相(概ね数日後~)
●飲料水、トイレ用水の不足
- 断水が継続し、 飲料水の入手や水洗トイの使用が困難となる。
●感染症等の発生
- 避難所で密集した環境におかれ、安全な飲料水や衛生的なトイレが確保できず、手洗いが出来ない、マスクや消毒薬などの衛生物品が不足するなどにより、基本的な感染対策ができなくなる。
●屋外避難
- 体育館等に入りきれない避難者は車内に寝泊りすること等により静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)などで健康が悪化する。
- 女性、妊婦、乳幼児の発症リスクが高く、特にトイレ環境を理由に水分を控えると発症リスクが上がる。
●こどもや若年者への支援
- 避難所のトイレ等で性暴力に巻き込まれるリスクが高まる。
■被害様相(概ね1か月後~)
●避難生活の長期化に伴う心身の健康不安
- 水やトイレの使用等の制約が極限に達し、特に高齢者や障害者、妊産婦・乳幼児等の生活や健康に支障をきたす。
■更に厳しい被害様相
●二次的な波及の拡大
- 停電・断水・ガス供給停止・燃料不足が長期化した場合、トイレ等衛生環境の確保や調理の困難、また冷暖房の利用が困難となるために生活環境が極めて悪化し、高齢者等を中心に多数の震災関連死が発生する。
「災害時には、トイレが生死を分ける」
今(2025年4月)から11年前、トイレ防災に関わる契機となった研修で、私が耳にした衝撃的な言葉でした。
この目(もく)には、この言葉に凝縮されているトイレに関わる被害の様相のほぼ全てが描かれています。
災害用トイレの教育や備蓄、整備などで軽減できる被害も多い一方で、災害用トイレだけでは対処が十分とはいえないものも含まれています。
トイレ、というよりも排せつが、私が生きる上で欠くことのできない営みであることをあらためて受け止めています。
生活の影響-帰宅困難者
次は、同じく第6項「生活への影響」の第2目「帰宅困難者」です。
同目中の「トイレ」の使用箇所を引用します。
■被害様相(地震発生直後)
●一時滞在施設の不足
- 断水時には、水の備蓄のないところでは飲料水が確保できず、トイレも利用できない状況になる。
■被害様相(概ね1日後~数日後)
●一時滞在の困難
- 断水が復旧せず、飲料水の確保やトイレ利用の困難が継続する。
●徒歩帰宅の困難
- 断水等のためトイレが使えなくなるなどの事態が発生する。
発災時に帰宅困難な状況に陥る恐れについて、各自がどの程度の現実味を持っているかを問われているのを感じました。
帰宅困難者への支援の整備が特に都市部では進みつつあるとはいえ、期待値を下限で見積もるとすれば、十分な支援が受けられないことを想定すべきです。
このときトイレについて言えば、自助としてできる備えは携帯用トイレを携帯すること以外に、今のところありません。
外出する機会が皆無にならない限り、帰宅が困難になるリスクはあり続けます。
その意味で、携帯用トイレは常に携帯しておくべきお守りのような存在なのかもしれません。
その他の被害
残りを、一気に紹介します。
第6項「生活への影響」の第5目「保健衛生、感染症、御遺体への対応等」です。
■被害様相(地震発生直後)
●避難所等における衛生環境の悪化
- 津波浸水地域や多数の建物が被害を受けた地域を中心に、多数の避難者が避難所に集中する。その結果、一人当たりの居住スペースの減少、仮設トイレ等の不足、健康管理のための医師・保健師等の不足、テントや車中泊による屋外生活者の発生等、保健衛生環境が悪化し、感染症の集団感染につながる。
■主な防災・減災対策
●応急・復旧対策
- 保健衛生環境及び情報連携の著しい悪化を想定した防疫体制の確立(トイレ・洗面・入浴対策、ゴミ収集対策、感染対策チーム及び疫学専門家の確保、避難所等における臨時の感染症サーベイランスの実施等)
第8項「その他の被害」の第1目「エレベーター内閉じ込め」です。
■主な防災・減災対策
●応急・復旧対策
- 遠隔監視装置、簡易トイレや非常用飲料水等を備蓄した防災キャビネットの設置
第8項「その他の被害」の第7目「要配慮者」です。
■被害様相(概ね1日後~数日後)
●避難所生活の困難
- 認知症や知的障害の避難者が、介助がないとトイレに行けない、入浴ができないなどにより、避難所生活で疲弊する。
第8項「その他の被害」の第10目「大規模集客施設等」です。
■被害様相(地震発生直後)
●停電、水漏れ、ガス漏洩、火災等の発生
- 上下水道の寸断によりトイレが使用できなくなる。
第8項「その他の被害」の第11目「地下街・ターミナル駅」です。
■被害様相(地震発生直後)
●停電、水漏れ、ガス漏洩、火災等の発生
- 上下水道の寸断によりトイレが使用できなくなる。
最後は、第8項「その他の被害」の第19目「治安」です。
■主な防災・減災対策
●応急・復旧対策
- トイレ・更衣室・入浴設備を適切な場所に設置し、照明や防犯ブザーで安全を確保する。
これらは、第6項「生活への影響」の第1目「避難者」で確認した内容を場面を変えて展開したものです。
想定や対処という作業においては、「避難者」で確認した被害を基本とすれば、これらは応用といえます。
至極当たり前の話ですが、応用は基本の上に成り立ちます。
一部の例外を除いては、基本があってこそ、応用は柔軟に奏功します。
私が伝えている内容は基本です。
もっと言えば基本しか伝えていません。
ただし、基本は基本でも、その上に応用を立てられる基本です。
様々な方向に展開できる基本です。
私ができることで何であり、私が何をするべきかを「被害の様相」は、私にあらためて教えてくれました。
◇今日の気づき
基本があってこそ、応用は柔軟に奏功する
上に応用を立てられ、横に展開できる基本
◇引用・参考文献一覧
中央防災会議 防災対策実行会議 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(2025年3月31日)「南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について 【被害の様相】」
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg_02/pdf/saidai_03.pdf
◇この文章の入口(参考)
実務(右下)と整理された意味(右上)から、意味がほどける場所(左上)へ
この文章は、
判断や結論に入る手前の、話の地面に立ち戻る中で書かれています。
この文章を読んで、
話が噛み合わない感触や結論に入る前の違和感
が残るときは、それを急いで解消しなくても構いません。
そのための場所を、別に置いています。
