メールマガジンとして配信された文章)

おはようございます。ラピシュットの長谷川高士です。

平成28年熊本地震の発災から9年が経ちました。

9年前の4月14日21時26分に前震が、ほぼ28時間後の16日1時25分に本震が
それぞれ震度7を記録した災害史上に類を見ない大地震でした。

直接の経験者ではありませんが、被災地に住む一人として、これからもこの災害と様々な形で関わり続けたいと、私は思っています。

今日のコンテンツは、南海トラフ巨大地震その3、です。

このたび、約10年ぶりに見直された「南海トラフ巨大地震の被害想定と対策」を継続して読み解いています。

先週は、定量的な被害量をまとめた文書には「トイレ」という文字が登場しない、という事実から話題を展開しました。

そして、トイレの定量的な被害量の「推計手順の確立」を決意して稿を結びました。

対して今週は、被害の様相をまとめた文書でのトイレの扱われ方を見てみようと思います。

「被害の様相」の構成を概観

南海トラフ巨大地震の状況ごとの被害を描く「被害の様相」。

その(注釈を除いた)本文中には「トイレ」という言葉が23回使用されています。

その具体的な使用箇所を読み解く上で、「被害の様相」の文書構成への理解が欠かせません。

「被害の様相」は次の3節に大きく分かれています。

  1. 被害想定趣旨等について
  2. 総括
  3. 項目別の被害の様相

※実際の節番号はローマ数字ですが、 便宜上「括弧付きの算用数字」に変換しています。

そして第3節の「項目別の被害の様相」には、その名の通り次の10項が立てられ、それぞれの被害の様相が示されています。

  1. 建物被害
  2. 屋外転倒物、落下物
  3. 人的被害
  4. ライフライン被害
  5. 交通施設被害
  6. 生活への影響
  7. 災害廃棄物等
  8. その他の被害
  9. 経済的な被害
  10. 地域特性に応じた被害シナリオ

さらに、第1項および2項以外の項は、最大で19の目(もく)に分けられており、これにより、より細分化した被害の様相を知ることができます。

また各項(または各目)は、「被害様相」と「主な防災・減災対策」の2つで構成されいます。

23個の「トイレ」が、どの項や目で使用されているのかを踏まえて読み解いてみたいと思います。

災害関連死とトイレ

「トイレ」が最初に登場するのは、第3項「人的被害」の第9目「災害関連死」です。

なお、第3項「人的被害」は項全体を総括的に記述した後で、個別の目として「災害関連死」を立てています。

同項中の目はこれ1つですが「9」が採番されています。

同目中の「トイレ」の使用箇所を引用します。

■被害様相
●避難所等の劣悪な生活環境による心身の健康被害

  • 高齢者等が、トイレに行く回数を減らすために水分を取らず、脱水症状等により死亡する。

■主な防災・減災対策
○応急・復旧対策

  • トイレ環境の整備(避難所のトイレが気持ちよく使えるためのルールづくり)

なお本文ではありませんが、注釈には次のようにも書かれています。

肺塞栓症(エコノミークラス症候群)は女性、妊婦、乳幼児の発症リスクが高く、特に、トイレ環境を理由に水分を控えると発症リスクが上がる。

次のような3段階の因果関係によって、トイレは命に関わる問題になります。

  1. トイレ環境に課題がある
  2. だからトイレに行け(行きたく)ない
  3. そのために飲水を控える
  4. その結果、健康上のリスクが高まる

「トイレ環境の整備」という対策はそのとおりである一方で、その実効性を高めるには、タスクを細分化する必要があるといえます。

ライフラインとトイレ

次は、第4項「ライフライン被害」の第2目「下水道」です。

■被害様相
●地震直後の状況

  • 避難所等で、災害用トイレ等の確保が必要となる。

■主な防災・減災対策
○応急・復旧対策

  • 企業や家庭等における災害用トイレの備蓄の充実

被害様相には、トイレという表現を使っていないものの、トイレに直接関連する次の記述もあります。

(全国各地で)約9割の需要家で処理が困難となる。

「需要家」とは下水道の使用者、すなわち住民のことを指しています。

下水道に接続せず、浄化槽等で下水を処理している住民と区別するため「需要家」という語を用いてものと思われます。

そして、この需要家の件(くだり)は、次のように注釈されています。

需要家側で下水道に流せる状態であっても、管路被害等があれば利用困難とした。

管路被害等がある状況で需要家側が汚水等を流すと、マンホールからあふれ出したり土壌汚染等が発生したりする危険性がある。

なお、同項の第1目は「上水道」ですが、ここには直接的にも間接的にもトイレに関する記述はありません。

誰の目に映る様相か

ライフライン被害との関連におけるトイレ被害の取り扱われ方について、私は疑問と違和感を覚えました。

ここで言う「被害の様相」とは、誰の目に映るものであろうか。

すなわち、
「どこにいる、誰の目線から見た様相であろうか」
という疑問と違和感です。

私のこの疑問に答えてくれそうな記述を、本文書中に見つけました。

南海トラフ巨大地震が発生した場合の被害の全体像を俯瞰するとともに、可能な限り詳細な被害状況を明らかにする観点から、地震時に発生する可能性のある事象を幅広く想定した「被害の様相」を作成する

答えの1つは、いわゆる「鳥の目」だと言えそうです。

たしかに全体像を俯瞰するには、鳥の目は必要であり有効です。

一方で、「詳細な被害状況を明らかにする」ためには「虫の目」も必要でしょう。

しかも、本文書には次の記述もあります。

本被害様相は、行政のみならず、個別の施設管理者、民間企業、地域、一人ひとりの個人が被害の拡大をできるだけ抑え、地域社会の継続に必要な事業継続活動を途絶えさせないよう、防災・減災対策を検討する上で、備えるべきことを具体的に確認するための材料として作成したもの

必ずしも適切とは言い切れませんが、行政の目線を鳥の目、一人ひとりの個人の目線を虫の目に、それぞれ当てはめることができる場面が少なからずあるのではないか、と私は考えます。

この記述通りの目的を本文書に持たせるのであれば、鳥の目のみならず、虫の目で見た被害様相が示されねばなりません。

残念ながら今回の「南海トラフ巨大地震の被害想定と対策」には示されていませんが、「住民の目の前に現れる様相としてのトイレ被害」を、あえて同じ書式を用いるならば、私は次のように書きます。

■上水道に関連する被害様相
●地震直後の状況

  • 断水で水洗トイレがいつもどおりには使えなくなる

■下水道に関連する被害様相
●3~7日後の状況

  • 水洗トイレの使用を制限(不使用を要請)される

トイレの定量的な被害量の推計には、鳥の目と虫の目、さらには流れを見通す魚の目の3つが必要です。

来週に続きます。

◇今日の気づき

実効性を高めるにはタスクの細分化が必要
鳥の目と虫の目に、流れを見通す魚の目

◇引用・参考文献一覧

中央防災会議 防災対策実行会議 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(2025年3月31日)「南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について 【被害の様相】」
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg_02/pdf/saidai_03.pdf

◇この文章の入口(参考)

感覚(左下)から、意味(左上)へ


この文章は、
判断や結論に入る手前の、話の地面に立ち戻る中で書かれています。

この文章を読んで、

話が噛み合わない感触や結論に入る前の違和感

が残るときは、それを急いで解消しなくても構いません。

そのための場所を、別に置いています。

結論の前に