メールマガジンとして配信された文章)

おはようございます。ラピシュットの長谷川高士です。

約10年ぶりに見直された「南海トラフ巨大地震の被害想定と対策」が3月31日に公表されました。

先週に引き続き、この話題を続けます。

今日のコンテンツは、南海トラフ巨大地震その2、です。

先週は、見直された被害想定と対策について、その全体像を概観しました。

今週は焦点を私の専門の1つであるトイレに絞って、被害想定と対策の読み解きを続けようと思います。

見直された被害想定は、数値で示す「定量的な被害量」と状況ごとの被害を描く「被害の様相」の2つで構成されているとお伝えしました。

定量的な被害量をまとめた文書はA4判で全97ページに及びますが、その中に「トイレ」の文字は、ただの一度も登場しません。

「トイレに困る」という被害を定量的に推計することは、少なくとも現時点では、容易でない、と対策ワーキンググループが判断したことを推測できます。

そして私も同じく、推計は容易ではない、と考えます。

ただし私は、容易でないだけであって、不可能だとは考えません。

たとえば、地方自治体によって策定される災害廃棄物処理計画の中には、(結果として)トイレ被害の定量的推計の一部とし得る内容を含むものがあります。

不可能ではないが容易でもない場合、その作業には甚大なコストが掛かるといえます。

作業に掛かるコスト(費用)とそれで得れるベネフィット(利益)。

相対的に後者の方が大きい場合に、困難であることだけを理由に不作為を選択をするならば、それは
「非理性的な態度である」
と言わざるを得ません。

ここまでの命題を真として前提すると、焦点は次の命題の真偽に絞られます。

すなわち、トイレ被害の定量的な推計について、

  • 得られるベネフィット(利益)は、そのコスト(費用)よりも大きい

という命題です。

ベネフィットはコストよりも大きいか

私はかつて、この命題の真偽に関わるある検証に取り組んだことがあります。

2023年2月14日配信の第251号から4号続けて、その検証内容を報告しました。

この時の検証体験は、まさにトイレ被害の定量的な推計そのものでした。

残念ながらその当時は、作業時間を計測して記録するという習慣が私にはまだなく、ゆえにこの推計に掛けたコストを正確に算出することができません。

また当時の推計には、他者により算出済みの各種数値を、前提条件として流用しました。

より正確に算出するには、前提としたそれら数値の算出コストも、場合によっては加算する必要があるかもしれません。

これらの理由から、現時点ではコストを定量化することが叶いません。

では、ベネフィットはどうか。

トイレ被害が定量的に推計できると、必要な対策を同じく定量的に明確化できます。

既に何らかの対策が施されている場合には、両者の比較により過不足分を数値で共有することができます。

トイレの対策量が必要量に対して過剰であることは稀であるため、一般的には
「対策の不足分を定量的に把握できる」
ということが、得られるベネフィットだと言えます。

このベネフィットの量を、コストと比較可能な単位で定量化することは、別の意味で困難です。

散々論理的に考察を進めておきながら、ちゃぶ台を一気にひっくり返すようでやや気が引けますが、あえて主観的かつ体感的に次の主張を述べたいと思います。

トイレ被害の推計についてその範囲を限定した場合において、そのコストは、

  • 対策の不足分を定量的に把握できるというベネフィットに対して、現実的と言える程度には小さい

いつもどおり回りくどく書きましたが、平たくいえば、
「推計するに値する」
ということです。

なお私が考える「限定すべき推計の最大範囲」は人口が20万人未満の基礎自治体です。

政令市や中核市など人口が20万人を超える場合には、行政区など、合理的な条件で細分化した方が、コストの現実度が増すでしょう。

さらに言えば、範囲を狭めれば狭めるほど、いわゆるコスパが良くなります。

すわなち小さな範囲であればあるほど、より現実的なコスト(手間)で推計ができ、対策の不足分を定量的に把握できるというベネフィットを獲得しやすい、というわけです。

問題意識から生まれる副産物

今(2025年4月)から約2年前の検証により、副産物的に得られたのが、災害用トイレの公式でした。

災害用トイレの性能と必要量を [人・日] という単位によって等価とし、災害用トイレの基数から性能を、あるいは必要量から災害用トイレの基数を、それぞれ換算によって算出できる、という公式です。

対して今日のテーマは、そもそもの必要量を算出するという話です。

トイレの定量的な被害量とは、すなわち災害用トイレの必要量だからです。

こちらはさすがに公式といえるほど単純にはできかねますが、推計手順としてなら示すことが可能です。

容易ではないけれど、不可能でもありません。

前回同様、問題意識をきっかけにこの推計手順の確立に取り組んでみようと思います。

◇今日の気づき

困難だけが理由の不作為は非理性的である
問題意識をきっかけに副産物が生まれる

◇引用・参考文献一覧

中央防災会議 防災対策実行会議 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(2025年3月31日)「南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について 【定量的な被害量】」
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg_02/pdf/saidai_01.pdf

◇この文章の入口(参考)

整理・推計(右上)と、実務上の制約や判断(右下)から、意味がほどける地点(左上)へ


この文章は、
判断や結論に入る手前の、話の地面に立ち戻る中で書かれています。

この文章を読んで、

話が噛み合わない感触や結論に入る前の違和感

が残るときは、それを急いで解消しなくても構いません。

そのための場所を、別に置いています。

結論の前に