メールマガジンとして配信された文章)

おはようございます。ラピシュットの長谷川高士です。

約10年ぶりに見直された「南海トラフ巨大地震の被害想定と対策」が3月31日に公表されました。

今日のコンテンツは、南海トラフ巨大地震、です。

中央防災会議に設置された南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(以下、「対策WG」とします)が、令和7年3月31日に最新の報告書を公表しました。

最新の科学的知見を反映させ被害想定と対策を見直したものです。

今回は、その報告内容を概観しようと思います。

公表に至る経緯(10年ぶりの見直し)

南海トラフ巨大地震の被害想定と対策の見直しは、平成26年3月に策定された「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」から約10年が経過したことを受けて行われたものです。

令和5年2月に「南海トラフ巨大地震モデル・被害想定手法検討会」が設置され、津波高や震度分布など、最新の知見を踏まえた被害想定の計算手法が検討されました。

さらに同年4月に対策WGが発足。

防災対策の進捗状況の確認や被害想定の見直しに加え、新たな防災対策などが検討されました。

令和6年1月に発生した能登半島地震への対応を優先するため、一時検討が中断したものの、当初の予定から約1年遅れて、このたびの検討結果の公表に至りました。

というわけで公表された内容は、「被害想定」と「対策」の2つで構成されています。

定量的な被害量と被害の様相

被害想定は、さらに2つの要素で構成されています。

その2つとは、数値で示す「定量的な被害量」と状況ごとの被害を描く「被害の様相」です。

2つの異なる被害想定により、被害の具体像をより多面的に理解できるようになり、現場での対応策を考えやすくなっています。

■定量的な被害量

定量的な被害量とは、南海トラフ巨大地震が発生した場合に想定される様々な被害をそれぞれ具体的な数値で示したものです。

これにより、災害の規模を客観的に理解できるようにしています。

たとえば次のような数値です。

  • 死者数 最大約29.8万人
  • 全壊焼失棟数 最大約235万棟
  • 資産等の被害 約224.9兆円

これらの数値は、被害の大きさを客観的に示すだけでなく、重点を置くべき対策を判断するための指標となります。

特に、建物の被害想定が深刻な地域では、耐震化や感震ブレーカー導入など住宅被害を軽減する対策が必要です。

また企業においては業務継続計画(BCP)の再検討が求められます。

このように対策を議論する必要性から、今回初めて想定に加えられたのが災害関連死です。

災害関連死については、その推定に限界があることから、想定死者数と併せてリスクが高く対応が必要な人の規模も試算されています。

■被害の様相

一方で、数値の被害想定だけでは、具体的な被害状況を想像しづらい、という課題がありました。

この課題を解決するための想定が「被害の様相」です。

今回の報告では、都市部、沿岸部、中山間地域といった地域特性ごとに異なる被害想定が被害の様相として示されています。

たとえば都市部では長周期地震動による高層ビルの揺れやエレベーター停止のリスクが、沿岸工業地帯では津波により工場や港湾施設が浸水し、生産活動が一時停止するリスクがそれぞれ指摘されています。

また中山間地域や離島では、地震後の道路寸断によって物資不足や孤立が発生しやすく、支援物資の供給体制が課題となります。

このような具体的な状況を示すことで、住民や自治体がいわゆる「自分ごと」として被害を捉えやすくなり、より現実的な対策を立てやすくなります。

なお、被害の様相については「最大クラス地震における被害様相の横断的整理」という文書が併せて公表されています。

様々な主体(全ての人、外国人、企業、自治体)や様々な地域別の各種被害の様相が発災からの段階(~72時間、~1週間、~1か月)ごとに横断的に図解されいる活用しやすい資料です。

※本記事末にURLリンクを掲載しています。

対策の構成:ハードとソフトの両立

被害を想定する目的は、具体的な対策を立て、それを実行することです。

今回公表された「南海トラフ巨大地震対策について」という報告書には、ハードとソフトの両面から、対策に取り組む必要性が強調されています。

南海トラフ巨大地震では被害が大規模かつ広範囲に及ぶことから、インフラの整備(ハード面)と住民意識の向上(ソフト面)とを両立させることが不可欠なのです。

対策を構成するのは、次の3つの柱です。

  • 強靭化・耐震化
  • 早期復旧
  • 防災DXの推進

強靭化・耐震化はハード対策の中心です。

住宅の耐震化率を90%に引き上げることが目標とされ、特に木造住宅密集地域における感震ブレーカーの普及が重要視されています。

これらは、倒壊や火災のリスクを低減するための対策です。

また津波避難ビルの整備や堤防の強化も計画され、沿岸部での水害対策が強化されます。

ハード面の対策は、災害発生後に人命を守り、インフラ機能を維持するために欠かせません。

早期復旧と防災DXの推進はソフト対策です。

避難者支援を充実させるため、温かい食事や入浴支援を迅速に提供できる体制の整備が必要です。

避難者一人ひとりの生活環境を重視し、「人を支える拠点」としての避難所運営が求められています。

また避難者の健康管理を重視し、特に災害関連死を防ぐために、長期避難生活のストレスケアや感染症対策も強化される見込みです。

デジタル技術を活用した防災DXの推進も強調されています。

新たに導入される「SOBO-WEB(新総合防災情報システム)」では防災情報を自治体間で共有でき、意思決定の迅速化が期待されています。

被害想定の受け止め方・対策の考え方

被害想定の1つである「被害の様相」の冒頭に、被害想定の受け止め方や対策の考え方が示されています。

その一部を要約引用します。

■想定上の南海トラフ巨大地震とは

  • 最新の知見に基づく最大クラスの地震
  • 明確な記録が残る時代の中ではその発生が確認されていない地震
  • 千年に一度、あるいはそれよりもっと低い頻度で発生する地震

■「何としても命を守る」ための想定

  • 発生頻度が極めて低い地震だが、防災対策を検討するために想定した
  • 東日本大震災の教訓を踏まえて「何としても命を守る」ことを主眼に想定した
  • 仮に発生すれば超広域にわたり経済的な被害は甚大と推計される

■正しく恐れる

  • 起こり得る事象を冷静に受け止め、「正しく恐れる」ことが重要
  • 地震の規模に関係なく、防災・減災対策を講じれば、被害量は確実に減じることができる
  • 行政、企業、地域及び個人のそれぞれが対応できることを見極めて備える

■命の対策は最大クラスで

  • 「何としても命を守る」ことを最優先に最大クラスの津波を想定した対策が必要
  • 危機管理の観点から災害応急対策も最大クラスの地震・津波を想定した備えが必要

■施設や経済的な対策は現実的に

  • 施設等や経済的な被害について、最大クラスの地震・津波に対する被害をゼロとする目標は非現実的
  • 最大クラスの地震・津波の被害拡大をできるだけ抑えられるよう、各々が対応できることを見極めて備える

正しく恐れることは全く容易ではありません。

正しく知るという学習と正しく恐れるという感情の制御が必要であり、いずれも容易くないからです。

だからこそ向き合い続ける。

このような読み解きは、その1つです。

歩みと同じく、学んで感じて前に進みます。

◇今日の気づき

正しく恐れることは全く容易ではない
歩みと同じく、学んで感じて前に進む

◇引用・参考文献一覧

中央防災会議 防災対策実行会議 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(2025年3月31日)「南海トラフ巨大地震対策について(報告書)」
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg_02/pdf/nankai_hokoku.pdf

中央防災会議 防災対策実行会議 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(2025年3月31日)「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ 報告書 概要」
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg_02/pdf/nankai_gaiyo.pdf

中央防災会議 防災対策実行会議 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(2025年3月31日)「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ報告書 説明資料」
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg_02/pdf/nankai_setumei.pdf

中央防災会議 防災対策実行会議 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(2025年3月31日)「南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について 【定量的な被害量】」
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg_02/pdf/saidai_01.pdf

中央防災会議 防災対策実行会議 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(2025年3月31日)「南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について 【定量的な被害量(都府県別の被害)】」
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg_02/pdf/saidai_02.pdf

中央防災会議 防災対策実行会議 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(2025年3月31日)「南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について 【被害の様相】」
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg_02/pdf/saidai_03.pdf

中央防災会議 防災対策実行会議 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(2025年3月31日)「最大クラス地震における被害様相の横断的整理」
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg_02/pdf/saidai_04.pdf

◇この文章の入口(参考)

整理された意味(右上)を通り、拭いきれない感触(左下)を伴って、意味がほどけるところ(左上)へ


この文章は、
判断や結論に入る手前の、話の地面に立ち戻る中で書かれています。

この文章を読んで、

話が噛み合わない感触や結論に入る前の違和感

が残るときは、それを急いで解消しなくても構いません。

そのための場所を、別に置いています。

結論の前に