(メールマガジンとして配信された文章)
おはようございます。ラピシュットの長谷川高士です。
2025年2月21日(金)に、長崎市でトイレ防災の講演を行いました。
主催者は、市民活動団体の「みんなにやさしいトイレ会議」さんです。
今日のコンテンツは、体験ワークの深化への挑戦、です。
2025年1月28日配信の第352号で、次のように書きました。
「体験ワークを深化させたくなった」
その深化への挑戦の場となったのが、2025年2月17日の串本町、そして2月21日の長崎市での講演でした。
同じ週に2度続けて行えたことは、ありがたい巡り合わせだったと思います。
今日はその「体験ワークの深化への挑戦」を報告します。
長崎の主催者は市民活動団体
報告に先立って、長崎市での講演の主催者を紹介します。
市民活動団体の「みんなにやさしいトイレ会議」さんです。
2011年に設立された同会は、コンセプトである「安心・安全で、みんなにやさしいトイレ」を長崎で実践し、長崎から全国に向けて発信し続けている団体です。
同会の主な活動内容は、次の2つです。
- 公共トイレのマニュアル作成
大人から子供、障害を持つ方、男性・女性・高齢者…みんなの視点を活かした、みんなにやさしい公共トイレの基本マニュアルの作成 - 利用者のマナーアップ作戦
みんながうれしいと思う、改装プランの提言、利用者のマナーアップ作戦
活動の大きな成果の1つといえるのが、2023年3月に竣工した長崎市庁舎のトイレでした。
コンセプトである「みんなにやさしい」を新庁舎のトイレに実現する。
その思いで同会は、行政である長崎市に積極的に働きかけました。
子育てや障害者の団体、さらにはトイレメーカーをも巻き込んで、足かけ6年、計12回の協議を丁寧に重ねました。
官民協働による結実。
そして、優れた機能とデザイン。
ソフトとハードの両面を高く評価され、長崎新市庁舎のトイレは2023年のJTAトイレ賞を受賞しました。
この、市民活動団体である「みんなにやさしいトイレ会議」さんが、今回の講演を主催してくれました。
協賛してくれるスポンサーを募り、メディアに向けて広報を行い、参加者を自ら集めた上で、会場を設営し、講演会を運営する。
このすべてを会のメンバーが行ってくれました。
心から感謝いたします。
当日の参加者は約50名。
同会の熱い思いが伝わり、串本町の時と同じく住民を中心とする多くの方が聴講されました。
試行の内容とその目当て
「体験ワークの深化への挑戦」に話を戻します。
新しいことへのチャレンジは、多くの場合、試行錯誤を繰り返しながら進みます。
今回も、その例外とはならず、2回の試行によって結果というフィードバックを得ることができました。
■何を試したか
試したことは、次の2つの「追加」です。
- 体験ワークに、ディスカッションを追加
- 講演の最後に、書き出しワークを追加
■何を目当てたか
試行には目当て、すなわち目的や意図があります。
2つの追加という試行には、ともに
「体験ワークを深化させる」
という意図があります。
そして深化の方向性は、「より主体的に」と「みんなで」の2つです。
体験ワークを
「より主体的に、かつみんなで行う」
ということを目当てて、私は2つの追加を試行したのでした。
これまでの体験ワークの概要
今回の試行を追加する前の従来の体験ワークについて、その概要を示しておきます。
体験ワークのタイトルは「はじめてのすわせきり」です。
携帯・簡易トイレを、「水分を吸収して安定させて、排せつ物をごみに出す方法」と私は定義しています。
この「水分を吸収して安定させる」という部分を「吸わせきる」と呼んで、その体験を提供するワークです。
■体験ワークの具体的な手順
具体的な手順は次のとおりです。
まず袋をかぶせたボウルの中に、250mL(ミリリットル)の水※を入れます。
※この水は1パーセントの食塩水です
次にこの水を、次のいずれかを使って吸収し安定させます。
- 紙おむつ
- 尿とりパッド
- 猫砂
- 新聞紙
いずれを使うかという選択の裁量は、原則として参加者にはありません。
「吸わせきる」というミッションを、偶然に割り当てられたものを使って参加者自らが考えて行う、というわけです。
■体験ワークのそもそもの目当て
従来の体験ワークのそもそもの目当ては「身体感覚の経験(の提供)」です。
「吸わせきる」という手続きの身体感覚を、手を使って実際に行うことで直に経験することができます。
文字どおりの「体験」が目当てなのです。
体験ワークにディスカッションを追加
(おさらいになりますが)追加という今回の私の試行は、従来の体験ワークを
「より主体的に、かつみんなで行う」
ということを目当てて行ったものでした。
「吸わせる何か」こそ偶然に割り当てられてはいるものの、それを用いて行う「吸わせきる」という手続き自体は、従来の体験ワークにおいても参加者自らが考えて実践するものでした。
しかも1人ずつではなく、4~6人程度のグループで取り組みます。
つまり、従来の体験ワークも、
- そこそこに主体的であり
- かつみんなで行う
という性格のものだったのです。
これを
「より主体的に、かつみんなで行う」
としたい。
そこで私が試すことにしたのが、ディスカッションの追加でした。
この試行は串本での講演の後に思い付いたので、長崎での講演で初めて実践しました。
■感想を聞く前にディスカッション
加えた内容は単純です。
「みんなで話してみてください」
と伝え、その時間(約3分間)を設けた、というだけでした。
しかし、その効果はすぐに、しかも分かりやすい形であらわれました。
従来の体験ワークでは、ディスカッションの時間を設けずに数名の参加者に感想を話してもらっていました。
挙手または指名によって話し手を特定し、私がその人にインタビューをするという形式です。
よって長崎の参加者には、インタビューの前に「みんなで行うディスカッション」が挿入されたことになります。
あくまでも私の体感ですが、長崎ではインタビュイー(質問に答える人)の話す時間が、これまでと比較して長く感じられました。
すなわち、アウトプットされる感想の量が、
「相対的に多い」
と感じられたのです。
仮説としての原因分析
この私の評価は、計測もせず体感のみで行っている時点で、ちっとも科学的ではありません。
この主観的な評価を前提とするその他の手続きにも、科学的な価値を見い出すことは、同様に困難です。
このことを承知の上で、仮説としての原因分析をやってみようと思います。
■そもそもみんで話していた
体験ワークは、漏れなく盛り上がります。
いわゆる「みんなでワイワイ」という盛り上がり方です。
楽しんでもらえていることが伝わり、私も嬉しく感じる時間です。
この意味においては、これまでも「みんなで話してはいた」のです。
私が加えた変更は、この盛り上がっている時間を延長しただけ、とも言えるでしょう。
そしてその一方で、これとは異なる別の解釈も可能です。
■ディスカッションを深めるプリフレーム
話法における技法の1つに、話のフレームを事前に示すというものがあります。
「プリフレーム」と呼ばれる技法です。
言うなれば「話題の予告」。
最も身近なプリフレームの1つに、生徒に向けて教師が使う
「今から話すところ、テストに出るぞ」
という常套句があります。
プリフレームという技法の概念をイメージしていただけたでしょうか。
ディスカッションを追加するに当たって、私はこのプリフレームを使いました。
「このワークで発見したことや、気づいたことをみんなで話してみてください」
こう言って、ディスカッションを促しました。
テーマが絞られた(枠にはめられた)ことで、ディスカッションの質が一段深まったのではないか、と推測しています。
さらには「3分間という時限」と「話し合うという形式」を設定したことにも、プリフレームと同様の効果がありそうです。
■言語化と「みんなで」の力
言語化と「みんなで」がもたらす価値は、クロスロードをテーマにした号で書いたとおりです。
そもそも
「体験ワークを深化させたくなった」
という思いのきっかけになったのがクロスロードでのファシリテート体験でした。
プリフレームによってディスカッションが深まり、その深まったディスカッションにおいては、言語化と「みんなで」の力がより作用しやくなっていた、のではないか。
これが私の仮説としての原因分析の結果です。
2つ目の試行である
- 講演の最後に、書き出しワークを追加
の報告は、次週書きたいと思います。
◇今日の気づき
体験ワークを、より主体的にみんなで行う
プリフレームと言語化と「みんなで」の力
◇引用・参考文献一覧
みんなにやさしいトイレ会議(2011年3月2日)「トイレ会議とは?」
http://toilet-mtg.jp/about/
長崎新聞(2024年2月13日)「長崎市庁舎のトイレが最高賞 2段階鍵や音声案内 「官民連携」高く評価」
https://www.nagasaki-np.co.jp/kijis/?kijiid=1129974235693285945
◇この文章の入口(参考)
現場の試行(右下)に立ちながら、途中で意味の整理(右上)をかすめて、意味がほどける場所(左上)へ
この文章は、
判断や結論に入る手前の、話の地面に立ち戻る中で書かれています。
この文章を読んで、
話が噛み合わない感触や結論に入る前の違和感
が残るときは、それを急いで解消しなくても構いません。
そのための場所を、別に置いています。
