(メールマガジンとして配信された文章)
おはようございます。ラピシュットの長谷川高士です。
本州最南端の潮岬(しおのみさき)がある和歌山県串本市。
この地での講演を終えて昨夜一泊し、串本の景勝を巡った後、「稲村の火」で知られる広川町に立ち寄ってから、新大阪行きの特急くろしおに乗りました。
指定席に座り、このメルマガを書き始めたところで、思わぬ事態に直面しました――。
続きは編集後記で。
今日のコンテンツは、官民の重なる思い、です。
串本町といえば、本州最南端の基礎自治体。
和歌山県が平成25年に発表した南海トラフ巨大地震の被害想定には、
「津波高1m到達まで、地震発生から3分」
「最大波高17m」
という衝撃的な数字が並んでいる場所です。
町では、役場庁舎を高台に移転するなど、被害を最小限にする努力が町長のリーダーシップの下で続けられています。
そんな串本町でのトイレの講演の機会をつくってくれたのは保健師さんでした。
最初に依頼を受けた時には、
「津波のことじゃなくて良いのですか」
と、思わず確認してしまいました。
返ってきた答えは、
「保健師による活動報告で、能登半島地震でのトイレの実状を聞いた」
「トイレの問題を何とかしたい、と強く思った」
とのことでした。
新幹線と特急を乗り継いで熊本から7時間半。
講師料に加えて掛かる交通費と宿泊費にも貴重な予算を割り当てていただくその熱意に、
「ぜひ応えたい」
と思いました。
平日の夜に40名を超える参加者
行政主催の住民向けの講演会で「平日の夜(18時30分~20時30分)に開催」ということ自体が、私が依頼を受けたものに限っていえば、珍しいことでした。
来場した住民の数は40名以上。
そこに町の職員も加わり、総勢50名以上が聴講してくれました。
講演の開始前、参加された住民の皆さんの表情を拝見して、
「こんな遅い時間帯にもかかわらず、よくぞ集まってくださった」
と、これまでにはない感覚を覚えました。
主催者としては、想定する参加者の来場のし易さなど様々な事情を考慮した上での日時設定だったのでしょう。
したがって、
「この時間帯だからこそ参加できた」
のかもしれません。
それでも、開始15分前にもかかわらず前から順に席が埋まっていく様子と、終業後にもかかわらず担当課の職員がもれなく参加している事実が、強い“何か”となって私に訴えかけるのでした。
今思い出しても、不思議な感覚でした。
住民啓発にかける保健師の思い
講演後に参加者に書いてもらったアンケートの内容を、後日主催者に提供してもらう予定です。
その内容をまだ読んではいませんが、肌感覚としては
「期待に応えられたのではないか」
と自負しています。
当日中の帰宅が時間的に困難であるため、費用を主催者に負担していただき、その日は串本で一泊しました。
折角町内に滞在しているということもあり、翌朝に保健師さんとの面談の時間を設けてもらいました。
トイレ防災について強い思いを持つ保健師さん。
実は、(私を講師とする)住民向け講演会の企画のほかにも啓発の取り組みを進めていました。
その1つが教育啓発のためのチラシ作成です。
面談の目的は、そのチラシの内容についてのディスカッションでした。
保健師さんが所属するのは福祉課です。
一方で、防災の担当者が所属するのは総務課です。
というわけで、このディスカッションには、保健師さんのほかに防災担当の職員さんも参加されました。
人が介在しないコミュニケーション
防災チラシに共通する大きな目的は、教育と啓発である、と言えるでしょう。
しかし、たとえばA4判片面という限定的な紙幅であれば、伝えられる情報量も自ずと限られます。
すると、対象や場面を絞ったより具体的な目的を設定する方が、当該のチラシの効果に期待できると言えそうです。
裏を返せば、対象が広く、あらゆる伝達場面を想定したものは、教育や啓発の効果を期待しづらい、ということです。
私は漫画チラシをつくりました。
制作にあたっては、対象こそ絞ってはいないものの、伝える内容を明確にし、伝達場面を限定しました。
その伝達場面の1つが、漫画チラシを教材として使う講演であり、いま1つは、その講演の聴講者による学んだ内容の別の誰かへの再伝達です。
現時点で保健師さんらが想定している伝達場面の1つは、たとえば公共施設のトイレへの掲示、など人が介在しないコミュニケーションでした。
これは、私が漫画チラシで想定しているような「人が介在するコミュニケーション」に比べると、成果をあげることの難度が格段に高まるものだと言えます。
マーケティング×防災の実践
2025年1月7日配信の第349号で、「マーケティング×防災の未来」と題して、次のように書きました。
高いて厚い防災の壁。
ひょっとするとその一部を、乗り越えるのとはまた違うアプローチで、マーケティングが解決してくれるかもしれません。
高くて厚い防災の壁は、この「人が介在しないコミュニケーション」において最も顕著に現れる、と私は考えます。
この壁を、その一部であっても良いので、乗り越えるのとはまた違ったアプローチで
「マーケティングの力で、解決してみたい」
とあらためて強く思いました。
「串本の皆さんが、私にそう思わせてくれた」
と手前勝手に味わっています。
どんな形があるのかも含めて、串本町のトイレ防災の取り組みへのご協力を、(業務上のご負担やご迷惑にならない範囲で)保健師さんや防災担当の職員さんと一緒に考えられたら嬉しいです。
◇今日の気づき
行政と住民のそれぞれが訴えかける強い“何か”
高くて厚い壁は人が介在しない場面にこそ現れる
◇引用・参考文献一覧
新実彰平(2021年12月4日)「南海トラフ地震で3分で津波到達 和歌山・串本町が進める「高台移転」 一方で避難をあきらめる高齢者も」FNNプライムオンライン
https://www.fnn.jp/articles/-/275745
和歌山県「「南海トラフの巨大地震」及び「東海・東南海・南海3連動地震」による津波浸水想定について」
https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/011400/bousai/shinsui/sinsui_d/fil/sinnsuisouteih25.pdf
◇編集後記
鉄道の振替輸送を初めて経験しました。
特急くろしおは、阪和線と紀勢本線を走る列車です。
私は紀勢本線の湯浅駅から、くろしお32号に乗りました。
すると間もなく車内アナウンスが流れます。
内容は次のとおりでした。
- 和歌山より大阪側の阪和線内で事故があった
- その解消まで途中の海南駅で停車する
- 再出発は20時以降の見込み
- 新大阪方面へは他社による振替輸送を利用可能
私はくろしおを降り、振替輸送を選びました。
一部の区間では朝のラッシュ並みの混雑も経験しながら、何とか新大阪に辿り着きました。
しかし、そもそも新大阪で乗り継ぎを予定していたのぞみは、熊本へ帰り着くための終列車。
遅延と振替輸送では、当該の終列車の発車時刻に間に合うはずもなく、急きょ手配した新大阪のホテルでこのメルマガを続きから書きました。
これもまた、振替輸送という1つの経験。
明日(既にもう今日ですが)の朝、始発の新幹線で熊本に戻ります。
◇この文章の入口(参考)
現場の出来事(右下)と、その場で生じた感触(左下)から、意味(左上)へ
この文章は、
判断や結論に入る手前の、話の地面に立ち戻る中で書かれています。
この文章を読んで、
話が噛み合わない感触や結論に入る前の違和感
が残るときは、それを急いで解消しなくても構いません。
そのための場所を、別に置いています。
