メールマガジンとして配信された文章)

おはようございます。ラピシュットの長谷川高士です。

2025年3月17日、国土交通省があるガイドラインを発表しました。

タイトルは「災害時地下水利用ガイドライン ~災害用井戸・湧水の活用に向けて~ 」です。

今日のコンテンツは、地下水、です。

2025年3月17日に、国土交通省が「災害時地下水利用のガイドライン(以下「本ガイドライン」とします)」を発表しました。

サブタイルとして「~災害用井戸・湧水の活用に向けて~」が付されています。

このガイドラインの目的と対象を、次の冒頭の文章から読み取ることができます。

大規模災害時における代替水源としての地下水利用は有効な手段の一つであり、地域防災計画に「災害時の代替水源としての活用」を位置付け、平常時から災害用井戸の登録、公表等の取組を進めている自治体が見られるようになってきています。

その一方で、地域防災計画に井戸水等代替水源の活用が位置付けられていながら、実効的な取組が伴っていないケースも見受けられます。

(中略)

本ガイドラインは、主にこれから災害用井戸や湧水の活用に向けた取組を始めようとしている自治体を対象に、取組の手順等について、分かりやすくまとめたものです。

つまり、

  • 対象は、災害時の地下水活用に取り組もうとしている自治体
  • 目的は、取り組みの手順を分かりやすく伝えること

ということです。

そもそも地下水とは

「災害時地下水利用のガイドライン」と銘打って公表した公文書である本ガイドライン。

その冒頭で、
「大規模災害時における代替水源としての地下水利用は有効な手段の一つである」
と、その大前提を高らかに掲げています。

では、そもそも地下水とは何でしょうか。

「地下水マネジメント推進プラットフォーム(Groundwater Management Promotion Platform、以下「GMP2」とします)」という官営プラットフォームがあります。

地下水マネジメントに取り組もうとする地方公共団体を一元的に支援することを目指して、内閣官房水循環政策本部事務局が運営しています。

このGMP2のウェブサイトから該当箇所を引用しながら、地下水を理解してみたいと思います。

我が国において、地下水を定義した法律はなく、水循環基本法にも地下水の定義はありません。一般に、自然物についての法律的定義は、法文上になくても不都合はないと考えられています。

なるほど、
「地下水自体を法的には規定していない」
ということです。

では、学術的にはどうでしょうか。

GMP2のウェブサイトに掲載されている日本地下水学会による解説を、(孫引きを承知の上で)引用します。

広義には、地表面より下に存在する水(土壌・岩石の間隙や割れ目に存在する水)の総称。

地下水面より上にあり、隙間が水で満たされていない領域(不飽和帯という)の水を土壌水、地下水面(自由地下水面という)より深く、隙間が水で満たされている領域(飽和帯という)の水を地下水として区別する場合もある

まとめると、
「地下水とは、地表面より下に存在する水」
となります。

あるものを概念的に捉える手段として、
「対義的な概念と比較する」
というものがあります。

要するに、「●●じゃない方」の特徴を知れば、結果として「●●」も分かる、ということです。

地下水の「じゃない方」に、「地表水」があります。

再びGMP2のウェブサイトから、地表水およびその比較としての地下水の特徴を、要約的に引用します。

■地表水

  • 渓流や川のように地上を流れていたり、貯水池、ダムなどに貯められていたりする水
  • 重力により、標高の高いところから低いところに向かって流れる

■地下水

  • 雨が地中に浸透するなどした結果として、地表面から下に存在している水
  • 重力のほか圧力によって流れ、条件によっては下から上に向かうこともある
  • たとえば谷や崖下の湧水のように水が地表面から湧き出ている場所では、地下水が下から上に向かって流れている場合がある

ここからさらに発展させると、次のように咀嚼し、まとめることができそうです。

  • (地球規模で見た場合)ヒトの手の届く範囲(地表の近傍)には、地表水と地下水が存在する
  • 地表水は常に目に見えるが、地下水は原則として目に見えない
  • 地表水も地下水も「流れ」が自然に生じている
  • つまり、地面の下にも川や池があり、それが地下水

この地下水を
「災害時の代替水源として利用しよう」
と、本ガイドラインは言っているわけです。

なお、代替水源とは、平時の水源に代わるものということですが、これは言わずもがな、
「平時の水源である水道(上水)が、大規模災害時には断水によって利用できなくなる」
ことを前提としています。

「地表水利用」は有効な手段ではないのか

繰り返しますが、本ガイドラインはその冒頭で、
「大規模災害時における代替水源としての地下水利用は有効な手段の一つである」
と、大前提を掲げています。

前章で、地下水の対義的概念として、地表水を取り上げました。

では、この「地表水利用」は、大規模災害時における代替水源としての有効な手段にはならないのでしょうか。

この問いに、本ガイドラインは答えてくれてはいませんが、おそらく
「否(地表水利用は、有効な手段にはならない)」
であろう、と次の理由から私は考えます。

■ 1)利用(占用)に許可が要る

地表水の代表とも言える河川の流水。

その利用(占用)について、河川法が次のように規定しています。

◇河川法第2条第2項
河川の流水は、私権の目的となることができない。

◇河川法第23条
河川の流水を占用しようとする者は、(中略)河川管理者の許可を受けなければならない。

■ 2)水質が地下水に劣る

地下水は地表面よりも下に存在する水です。

土壌層を通過する過程でろ過、吸着、分解等が作用し、懸濁物や有機物、細菌等が減少します。

要するに、浄水工程が自然に作用しているわけです。

地表水も、特に河川等の流水であれば、自然の浄水作用を期待できる一方で、流水面が露出していることにより汚染源と触れるおそれが高く、また排水の流入もあり、多くの場合、その水質は地下水に劣ります。

実際の災害時に、結果として河川の表流水に代表される地表水が、利用される(されてしまう)かどうかはさておき、国が自治体に対して、正面切って
「有効な手段(の一つ)である」
と認めるには、ハードルが
「やや高めである」
と言わざるを得ないのが現実です。

裏を返せば、災害時の地下水利用を
「現実的な手段として促進しようと国がしている」
ということでしょう。

地下水は誰のもの?

前章で、地表水である河川の流水は、
「その利用(占用)について許可が要る」
と法定されていることを紹介しました。

では、地下水はどうなのでしょうか。

まず、河川法が扱う河川の流水には、定義上、地表水に該当する表流水と地下水に該当する伏流水が含まれます。

ざっくり言うと、川の水のうち、地表(川底)の上を流れるのが表流水、下を流れるのが伏流水、ということです。

河川の流水である伏流水は河川法の対象となり、したがってその利用(占用)には許可が必要な地下水、ということになります。

では、伏流水以外の地下水はどうでしょうか。

結論を先取りすると、
「地下水は、土地の所有者のもの」
と解されています。

どういうことかを、順を追って説明します。

「土地には所有権(民法第207条)ってのがあるから、その土地の地表面の下に存在する水も、所有権の延長として自由に使えるよね」

かなり大雑把にいうと、このような判決が明治29年に出され、以後判例として取り扱われ続け今日に至ります。

ではなぜ、土地の所有権の延長として地下水を扱えるのでしょうか。

それは、当該の民法の条文を読むと分かります。

◇民法第207条
土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。

「土地の下に及ぶ」のだから、地下水も入るよね、という理屈です。

なお、この判例を支持――この“理屈”を「そうだよね」と肯定――する法学説を「私水説」と呼びます。

一方で、河川の流水と同様に、地下水も土地の所有権から切り離し、
「国民全体のものとすべきである」
とするのが「公水説」の立場です。

私水説に立つ判例の影響が未だ保持され続けている中、地下水に対する私権の範囲を揺るがす動きが重ねられてもいます。

平成26年に成立した水循環基本法には、次の条文があります。

◇水循環基本法第3条第3項
水の利用に当たっては、水循環に及ぼす影響が回避され又は最小となり、健全な水循環が維持されるよう配慮されなければならない。

この条文は、民法第207条における「法令の制限」と解され、地下水の利用は、土地の所有者であっても、
「健全な水循環が維持されるよう配慮した範囲」
に限られると言えるようになりました。

あるいは、次のような理由から、
「地下水利用権限は合理的な制約を受ける(何でもかんでも自由ってことではない)」
とする判決が複数出されてもいます。

  • 地下水は一定の土地に固定的に専属するものではなく、地下水脈を通じて流動するもの
  • 地下水の過剰な取水は、広範囲な土地に地盤沈下の恐れを生じさせる

このような学説上の対立や法解釈の変化の営みは、多くの場合、何十年というスパンで想像以上にゆっくりと進みます。

現時点(2025年6月)では、地下水利用権限を土地所有者に認める法解釈が安定的であることをもって、
「災害時の地下水利用の手段としての有効性を、了解し合えるのだ」
と言えそうです。

熊本県の取り組み

日本有数の“地下水県”である熊本県は、「地下水保全条例」を制定しています。

その一部を引用して、紹介します。

(目的)
第1条 この条例は、地下水が県民の生活にとって欠くことのできない地域共有の貴重な資源であることに鑑み、地下水の汚染の防止、地下水の適正な採取、地下水の合理的な使用及び地下水の涵養に関し必要な措置を講ずることにより、県民が豊かで良質な地下水の恵みを将来にわたって享受できるよう地下水の保全を図り、もって県民の健康の保護及び生活環境の保全に資することを目的とする。

(基本理念)
第1条の2 地下水の保全は、地下水の流動が蒸発、降水、地下への浸透並びに河川及び海への流出を繰り返すという水の循環の一部をなすものであり、かつ、地下水が県民生活及び地域経済の共通の基盤となっていることを踏まえ、地下水は公共水(公共性のある水であることをいう。)であるとの認識に立ち、事業者、県及び県民が地下水の保全に係るそれぞれの責務を果たすとともに、連携し、及び協働して地下水の保全に取り組むことにより推進されなければならない。

これらの条文は、次のようにまとめられます。

地下水は、

  • 水循環の一部をなすものであり、
  • 生活と経済の基盤としての地域共有の資源でもある
  • 「公共水」である

だから

  • 必要な措置を講じて地下水の保全を図り、
  • 官民が連携・協働して、これに取り組む

災害時であっても、むしろ災害時だからこそ、利用する地下水が「公共水」であるという前提を踏まえておきたいと、あらため思います。

◇今日の気づき

地下水とは、地表面より下に存在する水
地下水は、地域共有の資源である公共水

◇引用・参考文献一覧

日本水道新聞(2025年3月24日)「災害用井戸・湧水 登録制度の導入加速へ 内閣官房、利用ガイドラインを公表」
https://suido.suido-gesuido-media.jp/article/2025-03-24/55818

内閣官房水循環政策本部事務局 国土交通省水管理・国土保全局水資源部(2025年3月17日)「災害時地下水利用ガイドライン ~災害用井戸・湧水の活用に向けて~」
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/content/001879780.pdf

地下水マネジメント推進プラットフォーム
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gmpp/index.html

三好規正(2016年)「地下水の法的性質と保全法制のあり方 ~「地下水保全法」の制定に向けた課題~」地下水学会誌,58巻2号p.207-216
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jagh/58/2/58_207/_pdf/-char/ja

◇編集後記

熊本へ移住して1年半。

頻繁に通うようになってからで数えれば5年以上。

熊本弁や熊本独特の言い回しを初めて耳にして驚くことは、
「もうないかな」
と思っていたら……まだまだありました(笑)

つい先日遭遇したのが「おんたる」です。

音だけを耳にした時点では、日本語であることすら確信がもてませんでした。

きけば「御樽」と書くのだとか。

なるほど
「おんたる(おたる、とも読むらしい)」
ですね。

いやいや、でも意味は全く想像できない。

そこで解説を求めると、次のことが分かりました。

  • 行事の時に主催者へ渡す心付けである
  • 行事とは、忘年会、新年会、お祭りなど
  • 現金のほかお酒のこともある
  • たぶん熊本独特の風習

職場などでは
「出席はしない上司から、御樽だけは出してもらう」
というような一ひねり加わった文化として昇華してもいるようです。

さらに驚いたのは、

  • 歓送迎会では主役が御樽を包む

ということ。

会費は「要らない」って免除されていて、でも御樽を包んで持って参加すると、それ以上の餞別(プレゼント)が用意されている、ということらしいです。

関係性を大切にする熊本らしい文化だなぁと思いました。

◇この文章の入口(参考)

制度・公文書(右下)から、意味の手触り(左上)へ


この文章は、
判断や結論に入る手前の、話の地面に立ち戻る中で書かれています。

この文章を読んで、

話が噛み合わない感触や結論に入る前の違和感

が残るときは、それを急いで解消しなくても構いません。

そのための場所を、別に置いています。

結論の前に