メールマガジンとして配信された文章)

おはようございます。ラピシュットの長谷川高士です。

2025年3月17日、国土交通省があるガイドラインを発表しました。

タイトルは「災害時地下水利用ガイドライン ~災害用井戸・湧水の活用に向けて~ 」です。

先週は、地下水について確認しました。

今日のコンテンツは、井戸、です。

2025年3月17日に、国土交通省が「災害時地下水利用のガイドライン(以下「本ガイドライン」とします)」を発表しました。

サブタイルとして「~災害用井戸・湧水の活用に向けて~」が付されています。

本ガイドラインの目的と対象は、次のとおりでした。

  • 対象は、災害時の地下水活用に取り組もうとしている自治体
  • 目的は、取り組みの手順を分かりやすく伝えること

また、先週は地下水について考え、その内容を次のように確認しました。

  • 地下水とは、地表面より下に存在する水
  • 地下水は、地域共有の資源である公共水

今日は、この続きです。

湧水と井戸

地表面より下に存在し、かつ地域共有の資源である地下水。

本ガイドラインでは、その冒頭で
「大規模災害時における代替水源としての地下水利用は有効な手段の一つである」
としています。

災害時に地下水を大いに利用しよう、というわけです。

そして、サブタイルに「~災害用井戸・湧水の活用に向けて~」とあるとおり、その地下水利用の方法の主なものが、

  • 井戸
  • 湧水

の2つであることを、本ガイドラインは前提としています。

湧水とは湧き水のことで、地表面から自然に湧き出ている水のことです。

先週のメルマガでは、次のように書きました。

  • (地下水は)重力のほか圧力によって流れ、条件によっては下から上に向かうこともある
  • たとえば谷や崖下の湧水のように水が地表面から湧き出ている場所では、地下水が下から上に向かって流れている場合がある

このような地下水の特徴により、湧き水(が湧き出る)という現象は、わが国の各地でみられます。

同時に、この現象は人為的に制御することが困難でもあります。

要するに、自然に(しかも、ちょうどよい量で)湧き出ていたら好運であり、その恩恵に預かることができる一方で、そうでなければその利用は適いません。

このような性格の湧水に対して、地下水をより積極的に、すなわち人為的に利用しようという知恵が井戸だといえます。

そもそも井戸とは

井戸を辞書で引くと、次のように語釈されています。

地を掘って地下水を吸い上げ、または汲みとるようにしたもの

自然に湧き出てこないなら、まずは人手によって地下水面まで地面を掘り下げよう、と先人らは考えたのでしょうか。

地下水面が露(あら)わになれば、その時点で地下水は、実質的には「低い場所にある地表水」となり、そこに手が届きさえすれば、利用可能になるからです。

この「低い場所にある地表水となった地下水」を手元に引き寄せるには、次の2つの手段が考えられます。

  1. 汲み上げる
  2. 吸い上げる

1)の方が 2)よりも技術的には単純で、2)はある原理を基礎とするより高度な知識と知恵が必要です。

1)の「汲み上げる」で使われるのが、つるべ(釣瓶)です。

つるべとは、縄や竿の先につけた桶のことです。

縄を使う場合は、井戸の真上に設けた滑車にその縄をかけ、桶が付いている方とは逆側の縄を手で上げ下げすることで、つるべを地下水面まで下げ、水が入った状態で再び引き上げる、ということを実現します。

ちなみにこの時、ふと湧く疑問に、
「木製のつるべは、(水面まで下げたときに)浮力で浮いてしまわないのか」
というものがあります。

調べたところ、どうやら「水面に触れた桶を斜めに傾ける」ための、次のような工夫があるようです。

  • 縄を固定する金具の位置を中心からややずらして取り付ける
  • 桶の上側(口側)を重くする
  • 水面に付いた(音で分かる)ら、縄を軽く上げ下げして桶を揺らす

大気圧に押し上げてもらう

対して、2)の「吸い上げる」は、どのような仕組みでしょうか。

「ある原理を基礎とするより高度な知識と知恵が必要」
と書きましたが、実は、普段私たちが何気なくやっている“ある動作”の中で、この原理が働いています。

その動作とは、コップに入った飲み物をストローを使って口に入れることです。

この時、
「飲み物自体を吸引している」
ということを観念してしまいがちですが、起きている現象を記述する上では、この表現は、
「正確さにやや欠ける」
と言わざるを得ません。

私たちが吸引しているのは、ストローの中の空気です。

ストローに口を付けるより前の時点では、コップに入った飲み物には、ストローの内と外の区別なく、大気圧(という圧力)が等しく掛かっています。

口を付けて空気を吸引すると、ストロー内部の圧力が下がり、ストローの内と外で飲み物に対して掛かる圧力に差が生じます。

外側に掛かり続けている大気圧によって、圧力が低くなったストローの内側に飲み物が押し上げられ始めます。

さらに空気を吸引し続けると、圧力差がより大きくなり、したがって飲み物が押し上げられる高さも上がり、ついには飲み物が口の中に到達する、ということです。

というわけで私たちは、コップに入った飲み物をストローを使って口に入れるとき、飲み物自体を吸い上げているのではなく、空気を吸い込むことで、
「大気圧に、口まで飲み物を押し上げてもらっている」
のです。

この原理を全く地下水に応用したのが、2)の「吸い上げる」です。

よってお気づきのとおり、より正確にいえば、
「大気圧で押し上げる」
になるわけですが、これを踏まえた上で、「吸い上げる」と表現することにします。

井戸筒をコップに見立てると、そのほかに必要なのは、ストローと空気を吸い込む装置、となります。

ストローの役割を果たすがパイプです。

形状は全くストローと同じで、いわば「太いストロー」です。

空気を吸い込む装置には、手動と電動があり、いずれもポンプと呼ばれます。

  • 手動:手押しポンプ
  • 電動:井戸ポンプ

これらポンプの仕組みや構造の詳細な解説は本記事では避けますが、いずれも空気を吸い込み、パイプの中を真空に近い状態にします。

地表での大気圧は、約1,013hPa(=約1kgf/cm2)です。

そして、1kgの水の体積は1L=1,000cm3です。

体積1,000cm3の水を、底面積が1cm2の容器に注ぎ入れるとすると、その高さは1,000cm=10mになります。

したがって、大気圧と釣り合う水の高さ、すなわち、大気圧が押し上げられる水の高さの理論上の限界は、約10mであることが分かります。

これは、2)の「吸い上げる」という方法は、深さ10m以下(実際にはもっと浅い)の井戸でしか使えない、ということを意味しています。

では、10mよりも深い井戸は存在しないか、というと、そうではありません。

別の原理と技術を活用して、先人らはより深い井戸の水の利用を実現してきました。

その1つが、ジェットポンプと呼ばれるものです。

ものすごくザックリいうと、
「大気圧に、電気の力で生み出した水圧を加えて、地下水をより高く押し上げる」
という発想です。

その詳しい解説も、今日は割愛します。

◇今日の気づき

井戸は、地下水を人為的に利用する知恵
吸い上げるのでなく、大気圧で押し上げる

◇引用・参考文献一覧

内閣官房水循環政策本部事務局 国土交通省水管理・国土保全局水資源部(2025年3月17日)「災害時地下水利用ガイドライン ~災害用井戸・湧水の活用に向けて~」
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/content/001879780.pdf

◇この文章の入口(参考)

制度・現場(右下)から、意味(左上)へ


この文章は、
判断や結論に入る手前の、話の地面に立ち戻る中で書かれています。

この文章を読んで、

話が噛み合わない感触や結論に入る前の違和感

が残るときは、それを急いで解消しなくても構いません。

そのための場所を、別に置いています。

結論の前に